<社説>敵基地攻撃能力60%賛成 危険性を冷静に考えよう


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 共同通信の世論調査で、日本が敵基地攻撃能力(反撃能力)を持つことに賛成が60.8%に達し、反対は35.0%にとどまった。2月の同調査や7月の日本世論調査会の調査では拮抗(きっこう)していたが、一気に賛成が増え始めた。北朝鮮の相次ぐミサイル発射や「台湾有事」が取り沙汰される中で、周辺国に対する脅威感が高まっているのだろう。

 本紙は、敵基地攻撃能力保持は戦争を招く危険が大きいとして一貫して反対してきた。世論の動向に危機感を抱かざるを得ない。敵基地攻撃能力保持が戦争を止める力になるのか、冷静に慎重に考えることを呼びかけたい。
 敵基地攻撃能力保持は確実に「安全保障のジレンマ」を招く。軍拡競争には限りはなく、武器を突きつけ威嚇し合う中で偶発的に戦闘が始まり、エスカレーションしていく。軍拡のための財政負担も増大し続け、増税か他の予算の削減が迫られる。かつてそうして2度の世界大戦が起きた。歴史に学ぶべきだ。
 日本が戦後掲げ続けてきた専守防衛とは、飛来するミサイルを迎撃し、侵入してくる戦闘機や艦船を撃退することに徹し、相手領域への攻撃はしないというものだった。これが、相手に意図があり攻撃着手が分かれば、発射基地だけでなく指揮統制機能などの中枢も攻撃することになる。
 敵基地攻撃能力を保有すれば、相手はミサイル実験をやめるだろうか。また、実験なのか、演習なのか、攻撃なのか、瞬時に相手の意図を判断できるのだろうか。
 北朝鮮は、潜水艦からのミサイル発射実験も行ったし、列車を使っての移動発射実験もしている。ミサイルの100%迎撃が不可能であるのと同様、千発のミサイルがあっても相手の反撃を100%阻止することは困難だ。Jアラート(全国瞬時警報システム)が鳴った時には日本側は攻撃に出ているはずで、すぐ全面戦争になるだろう。さらに台湾と朝鮮半島のどちらかで有事が起きれば連動するとも指摘される。日本がその引き金を引いてはならない。
 もう一つ問題は、敵基地攻撃能力が日米軍事一体化の中で行使されることだ。情報の収集・分析も含めて、敵基地攻撃の判断を日本側が独自にすることは考えにくい。
 ウクライナの戦争から学ぶべきである。国内の原発にミサイルが1発でも着弾すれば、放射能汚染によって日本の半分が避難を強いられる可能性がある。核保有国に対する敵基地攻撃は、核戦争につながる危険をはらむ。ウクライナがロシア領内への攻撃を避けているのはロシアに核使用の口実を与えないためだ。敵基地攻撃は、核使用に至り世界大戦に発展しかねない。
 専守防衛に徹し、米国の戦争に加担すべきではない。脅威には外交で対応していくしかない。気候変動対策も待ったなしだ。戦争の準備をしている場合ではない。