<社説>新基地本体着工へ 民主主義破壊する暴挙 国は再考し撤回すべきだ


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 防衛省は米軍普天間飛行場の名護市辺野古沿岸部への移設に伴う新基地建設の埋め立て本体工事に早ければ、きょうにも着手する。

 新基地建設に反対する圧倒的民意を無視する暴挙であり、民主主義の破壊である。強く抗議する。
 新基地建設の是非を最終的に司法に判断させる道を選んだのは安倍政権である。判決前に本体工事に着手することは、司法軽視であり許されない。
 安保法制に続き、国民の安全よりも軍事を優先する安倍政権の危険な姿がさらに鮮明になった。沖縄だけの問題ではない。国民は座視してはならない。

協議打ち切りは無効

 翁長雄志知事による前知事の埋め立て承認取り消しの効力停止決定、埋め立て承認の国による代執行着手、さらには埋め立て本体工事の通告など、新基地建設に向けた安倍政権の一連の対応は、沖縄の民意を無視する恥ずべき行為である。
 県民は知事選をはじめとする一連の選挙で「新基地建設反対」の意思を明確に示した。その民意を踏みにじる安倍政権によって、新たな米軍基地が押し付けられ、基地被害の重圧に半永久的にさらされるかどうかの重大な岐路に立たされている。
 戦後70年にわたり、過重な米軍基地負担に耐えてきた県民の声を無視し、さらに基地負担を強いる。こんな不条理がまかり通る国は、民主主義国家には程遠い。
 沖縄以外であれば、知事が強く反対し、県民の大多数も反対する事業について工事を強行し、法廷闘争を視野にした代執行の手続きに着手することはないはずだ。沖縄に対する安倍政権の強権姿勢は常軌を逸している。
 沖縄防衛局は前知事の埋め立て承認の条件ともいえる留意事項で義務付けた事前協議の打ち切りも県に通知した。
 中谷元・防衛相は「県から『埋め立て承認を取り消したことから、協議はできない』旨の通知があった。よって協議は終了したものと考えている」としている。都合のいいように解釈するのはいい加減にすべきだ。
 県は事前協議を中断しただけである。県は「事前協議が整わないまま、本体工事に入ることはできない」とし、事前協議を再開する方針である。国が事前協議から逃げるのならば、新基地建設計画は撤回すべきだ。
 そもそも事前協議を打ち切るかどうかは、国に埋め立て承認を与えた県が判断すべきものだ。国の打ち切り通知は無効であり、県の求めに応じるのが筋だ。

適切な対応こそ重要

 菅義偉官房長官は本体工事着手に関し「前知事の埋め立て承認により、既に行政判断は下されている。行政の継続性の観点から工事を進めていきたい」としている。
 行政には継続性が必要なものと、見直さなければならないものがある。行政の長が継続性だけにとらわれては、住民のニーズに応えることなどできない。よりよい社会づくりのために、必要に応じて見直すことに何ら問題はない。その観点に加え、民意も反映させて各事案で適切に対応することの方がより重要である。
 新基地建設の是非は一連の選挙で最大の争点だった。埋め立てを承認した前知事は支持されず、「新基地建設反対」を訴えた翁長知事は約10万票の大差で県民の支持を得たのである。
 選挙結果に沿って見直すことを否定する官房長官の姿勢はいかがなものか。行政の継続性の必要性が全ての事項に当てはまるのならば、選挙の意味はなくなる。
 安倍政権は民主党政権時代の施策を、行政の継続性を理由に何一つ見直さなかったのだろうか。それでは政権交代の意味もなかろう。いったん決まったことだからとか、米政府と約束したことだからという政権に、存在する意義や価値はない。安倍政権は再考して、新基地建設計画を撤回すべきだ。