政府は防衛費増額の財源に建設国債を充てる方針を固めた。国債を防衛費に使うことを認めてこなかった従来の方針を転換し、建設国債の発行による借金で自衛隊施設の整備費の一部を賄う方向だという。戦前のように軍事膨張の歯止めを失う恐れがある。
政府・与党は法人、所得、たばこ税を増税して防衛費を確保していく方針も確認している。国民や企業の負担増に加え、国債発行で将来世代に負担を先送りまでして軍備を拡大する。納税者のあずかり知らない防衛力強化を前提に、金額や財源を論じることはこれ以上許されない。
増税にせよ国債にせよ、生産力向上に寄与しない防衛費の負担増は経済の活力を損なわせる。岸田政権は国民を置き去りにした手続きを止め、有権者に信を問うべきだ。
国債で防衛費を賄うことが「禁じ手」とされるのは、戦争の反省に他ならない。
戦前の日本は多額の国債発行で軍事予算を増大させ、軍拡に突き進んだ。日本銀行が際限なく国債を引き受けたことで財政規律は破綻。通貨増発による悪性のインフレーションを引き起こすなど、国民の資産が犠牲になった。
このため戦後の財政法は日銀による国債引き受けを禁じるなど、国債への安易な依存を厳しく戒めてきた。岸田文雄首相が防衛費増額の財源として国債発行に踏み込めば、軍備増強と合わせ戦前回帰が色濃くなる。
増税への理解を呼び掛けていた岸田氏が国債発行の容認に動いたのは、来年の統一地方選を控えて増税反対の大合唱となる自民党内の不満をそらす意図もあるだろう。
特に国債での対応を主張するのは最大派閥安倍派など、故安倍晋三元首相の影響が強い保守派議員だ。安倍氏は生前、国内総生産(GDP)比2%以上への防衛費倍増とともに、国債で財源を賄うことを持論としていた。
財政法は日銀による国債買い取りを禁じたはずだ。だが、安倍政権時に始まった「異次元」の金融緩和で、日銀は市場を通じて間接的に買い入れる抜け道的な手法で国債保有残高を増やしてきた。
日銀による国債買い入れに依存して借金を膨らませたアベノミクスの結果、国と地方の長期債務残高は2022年度末に1247兆円に達すると見込まれ、主要先進国で最悪の水準にある。国民1人当たり1千万円を超える借金を負う計算だ。
さらに防衛費に国債を活用する前例をつくれば、防衛支出のさらなる増加や財源と見込んだ税収が下回った際に、新たな国債発行が安易に繰り返されていく恐れがある。
安倍氏は「日銀は政府の子会社だ」と財政の信認を揺るがす発言もしていた。日銀の国債買い受けを「打ち出の小づち」のように借金を膨らませ、財政規律をゆがめていくことは容認できない。まさに戦前日本が進んだ道である。