<社説>障がい者に不妊条件 幸福追求権を全ての人に


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 北海道江差市のグループホームで、結婚や同棲(どうせい)を希望する知的障がい者に、不妊手術や処置を受けることを条件としていたことが明らかになった。子どもを産み育てるかどうかを自分で決める権利(リプロダクティブ権)の侵害の可能性があり、体に負担のある処置が結果として強いられていたのなら人権侵害に当たる。

 全ての人に幸福を追求する権利がある。本来は障がいの有無にかかわらず、望む人が子どもを産み育てられる環境でなければならない。国や都道府県は、他に同様な事例がないか早急に調査を行い、人権尊重を徹底させ、必要な制度拡充に乗り出すべきだ。
 グループホームを運営する社会福祉法人「あすなろ福祉会」は、20年以上前から、結婚を望むカップルに対し、男性にはパイプカット手術、女性には避妊リングを装着する不妊処置を条件とし、応じない場合は就労支援を打ち切るとしてきた。8組16人が処置に応じたという。
 法人の理事長は取材に対し「授かる命の保証は、われわれはしかねる。『子どもが欲しい』と言った場合、うちのケアから外れてもらう。強制するわけではない」と主張、事前に同法人の「ルール」として伝えていたと説明した。生まれた子どものケアをするかどうかは「その法人の考え方、支援の幅でいいんじゃないか」とも述べた。
 知的障がい者の子育てをサポートする社会福祉法人は全国にある。徳島県の「愛育会」の職員は「制度が不十分だから子育ては駄目というのは人権無視、明らかに差別だ」と憤った。長崎県の「南高愛隣会」は、生まれた子どもはケアの対象外だが、ボランティアで支援している。常務理事は「制度となり報酬が出れば、仕事に根拠ができる」と国が腰を上げるよう求めた。
 田中恵美子・東京家政大教授は「支援しないと言って同意を求めるのは脅しだ」と述べ「『出て行け』と言うならば、他の施設を紹介しなければならない」と障害者総合支援法の応諾義務違反の可能性を指摘する。その上で「親の障がいの有無にかかわらず、社会が子育てを支える仕組み、受け入れる寛容さが必要だ」と訴えた。
 「障がい者が子育てなんて」という考え方は、優生思想につながる。ハンセン病患者や旧優生保護法下で障がい者に対し不妊手術が強制されてきた歴史がある。その救済はまだ途上だ。その教訓が障がい者支援の現場に行き届いていないのではないか。
 身体、精神、知的いずれの障がいであっても、その有無に関係なく全ての人に幸福追求権がある。そのことに理解を深め、日常生活や教育、雇用、災害などあらゆる面で差別・偏見をなくしていかなければならない。今回の問題を機に、改めて一人一人が自らに問い、それぞれの地域社会を見つめ直す必要がある。