<社説>米艦、南沙航行 偶発的衝突回避へ対話を


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 「緊張の海」で2大国のにらみ合いが激しさを増しつつある。

 米国は27日、南シナ海・南沙(英語名スプラトリー)諸島スービ(中国名・渚碧)礁の周辺海域でイージス駆逐艦を航行させた。
 中国が「領海」と主張する人工島の周辺だ。両国海軍制服組トップは29日、現場レベルで危険行為を禁じる多国間ルールに従う必要性を確認するなど、偶発的な衝突の回避に向けて動きだしている。だが、「航行の自由」確保で妥協しない米国と、「重大な懸念」を表明した中国の隔たりは大きいままだ。
 南沙諸島の問題に関しては、中国の主張が一方的過ぎることが問題解決を遅らせている。
 中国が「領海」と主張するのは、軍事目的を含んで埋め立てた人工島周辺の12カイリ(約22キロ)だ。しかし中国も批准する国連海洋法条約は、領海の起点は基本的に自然に形成された陸地であり、満潮時でも水没しない陸地だと定めている。スービ礁周辺は埋め立て前は満潮時に水没した場所だった。
 条約に従えば、中国が言う「領海」は存在しない。「2千年以上前に中国が発見した」としているが、現代において主張には無理がある。それでも力による現状(領土)変更を進めようとするなら大国としての見識が疑われる。
 そもそも2002年に中国は、東南アジア諸国連合(ASEAN)と海域での領有権問題を平和的に解決する「南シナ海行動宣言」に調印している。法的拘束力のない宣言は実効性がないと批判されてきたが、中国はことし8月にマレーシアで開かれたASEANとの外相会合で「平和と安定を守る」10項目の提案を行った。今こそ平和的解決の道を模索すべき時だ。
 米艦航行に関し、日本政府は米国の行動を歓迎し、国際会議などで側面支援する構えだとされる。
 懸念されるのは、安全保障関連法の成立と合わせ、南シナ海で米軍と自衛隊が連携して活動を始めることだ。
 中国の「力による変更」に対して、力をもって当たるのでは解決は遠のく。こうした中国の姿勢を理由に、尖閣諸島の警備強化や宮古島、石垣島への自衛隊配備まで正当化される可能性もある。
 アジアに近い沖縄にとって、力と力の衝突は影響が大きく、何としても回避すべきだ。「緊張の海」を「平和の海」へ変える外交努力が各国に求められている。