<社説>核禁止決議案棄権 これが被爆国の役割なのか


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 世界の指導者や若者の被爆地訪問を奨励する日本主導の核廃絶決議案と、オーストリアなどが提出した核兵器使用禁止を求める核廃絶決議案が、国連総会第1委員会で賛成多数で採択された。

 採択を歓迎したい。だが、日本がオーストリアなどの決議案に棄権したことは看過できない。
 佐野利男軍縮大使は、核保有国と非保有国が協力して軍縮を進めるべきだとの日本の立場と「整合性が取りにくかった」と述べている。
 理解できない。「整合性」が取れる状況を重視するのであれば、日本の決議案も提案さえできないことにならないか。
 二つの決議案は核の非人道性を強調し、最終的な核廃絶を求めている点で共通している。「核兵器なき世界」の実現を目指す日本の立場とも合致し、棄権する理由はない。米国の核抑止力に依存する以上、核兵器使用禁止を求めないとする従来の姿勢を維持した結果、棄権したことは明らかだ。
 核保有国が非保有国と協調して核兵器廃絶に取り組む流れは後退している。北大西洋条約機構(NATO)加盟国の間では、ウクライナ情勢や米ロ対立を背景に「核の傘」の重要性が再認識されているとの指摘もある。
 そのような国際情勢の中で、唯一の被爆国である日本が果たすべき役割は何か。
 核保有国と非保有国が協力して軍縮を進める状況を待つのではなく、その状況を積極的につくり出していくことである。核兵器廃絶に向けたあらゆる決議案や市民運動を後押しすることで、日本は国際社会の協力態勢構築に貢献できるはずだ。被爆国として果たすべき役割を放棄してはならない。
 核兵器使用禁止決議案への棄権は反対したも同然だ。核兵器廃絶を求める国際社会に日本が冷や水を浴びせていいのか。
 日本は核保有国と非保有国の「触媒」の役割を果たすことを目指しているが、今回の棄権で両者の溝をさらに広げる結果となった。その責任は重大である。
 核兵器の使用を禁止し、核兵器廃絶に向けてあらゆる努力を払うことこそが日本の責務であることを再確認したい。
 米国の「核の傘」に依存する安全保障政策を捨てなければ、日本がいくら核廃絶を訴えても説得力はない。