<社説>中台首脳会談 平和の流れ築く一里塚に


この記事を書いた人 Avatar photo 宮城 菜那

 中国の習近平国家主席と台湾の馬英九総統がシンガポールで会談した。1949年の分断から66年。首脳同士が初めて直接向き合った。

 お互いの主権を認めないなど、双方の立場にはまだ隔たりがある。両者の思惑も異なり、会談の評価も分かれる。平和的な中台関係が保たれるかは不透明な要素が多い。
 それでも、戦火を交えたこともある中台のトップ同士が敬意を示す「先生」と呼び合って握手を交わし、台湾海峡の平和的発展の重要性で一致した意義は大きい。
 台湾海峡が「火薬庫」と呼ばれた時代とは隔世の感がある。中台関係の緊張の余波が瞬時に押し寄せてきた基地の島・沖縄から見ても歴史的対話は評価できよう。
 中台の両首脳は今後も対話を重ねて信頼関係を強めるべきだ。きな臭さが増す北東、東南アジア地域に台湾海峡から平和の流れを呼び込む一里塚にしてほしい。
 両首脳は会談で「一つの中国」の原則の下で、その解釈はそれぞれにゆだねる「1992年合意」を交流の土台に据えると再確認した。その上で馬氏は「両岸関係は最も平和的な段階にある」とし、閣僚級のホットラインを設けることを提案し、習氏も了承した。
 台湾は来年1月に総統選がある。独立志向が強い最大野党・民主進歩党が優位に立つ。国民党を率いる馬氏側は中台融和を印象付け、情勢を挽回する狙いがある。
 一方、中国の影響力が低下する政権交代を望まない習氏側は、将来の統一をにらんだ関係強化が必要になっていた。南沙諸島の領有問題で国際的包囲網を敷かれる中、緊張緩和に努めているという姿勢を打ち出す思惑もあるだろう。
 2008年に誕生した馬政権は経済交流を拡大し、中台関係を安定させた一方で、親中政策への反発が強まった。昨年、台湾の学生らが長期間国会を占拠した「ヒマワリ学生運動」は、中国の非民主的体質への不信感の表れだった。
 統一を望まない「現状維持派」が圧倒的多数を占める台湾では、首脳会談に対して「露骨な選挙介入だ」との批判や、中国主導の統一につながりかねないと警戒する声が出ている。
 中国は台湾の民意を尊重する寛容な姿勢で両岸の平和を保つ努力を尽くしてもらいたい。南沙や尖閣などの領土問題で強硬姿勢を改め、台湾総統選の結果によらず、平和的な対話路線を堅持すべきだ。