<社説>「是正指示」拒否 民主国家の看板が問われる


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 「わが国は法治国家である」とは安倍政権がよく使う言葉だ。米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古への新基地建設計画で、石井啓一国土交通相の埋め立て承認取り消し処分の是正指示に対し、翁長雄志知事は是正勧告に続き、指示も拒否する意思を表明した。政府は知事の拒否を受け「法治国家」の名の下、代執行提訴など法的手続きを進める見込みだ。

 しかし、考えてみてほしい。日本は「民主主義国家」である。民主的手続きを踏まえず、沖縄からの異議申し立てを却下することが「民主主義」の名にふさわしいのか。政府は再考すべきだ。
 民主主義の手続きとは最低限(1)必要な情報を共有する(2)議論し互いの主張を擦り合わせる(3)互いに納得できる合意点を見いだす-といった過程が必要だ。
 辺野古埋め立てに当てはめれば、この条件をまるで満たしていない。普天間飛行場の危険性除去という前提は国、県とも一致するが「なぜ辺野古でなければならないのか」という県民の疑問に、国は何一つ答えていない。
 埋め立て承認の取り消しをめぐって、知事は第三者委員会の調査に基づき「違法」と判断し、その根拠を説明した。国は県の判断を無視し、代執行手続きを進めながら「承認取り消し」の執行停止も認めている。矛盾する手続きを並行することについて、県から公開質問状が提出されたが、石井国交相は「回答の義務はない」として、議論に応じる姿勢すら見せない。
 議論ができない状態では、当然一致点を探ることも不可能だ。「国家事業に口を挟むな」というのであれば、それは独裁であり「民主国家」ではない。
 「主権在民」「基本的人権の尊重」は民主主義にとって当然のことだ。主権者、とりわけ当事者たる沖縄県民の7割以上が辺野古新基地建設に反対する中、法的手続きを踏めば国は何をしてもいいわけではあるまい。
 翁長知事は是正指示拒否を表明する記者会見で「国と地方は対等であり、安全保障で地方は黙っておれというのは一人一人の人権を無視するものだ。多くの意見を聞きながら進むのが当然で、それが民主主義国である」と述べた。
 知事の言葉を首相らは深く心に刻んでもらいたい。新基地建設を強行すれば日本は「民主主義国家」の看板を下ろさねばなるまい。