<社説>児童虐待 世代間連鎖防ぐ対策を


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 かねて指摘される「18歳の壁」に風穴を開けるなら歓迎だ。児童虐待防止策を検討する厚生労働省専門委員会は、児童福祉法の対象年齢を現行の18歳未満から20歳未満に引き上げる案の検討を始めた。

 現行法の規定により、虐待を受けた子らが養護施設にいられるのは原則18歳までだ。延長は可能だが、施設の定員には限りがあり、通常は高校卒業後すぐに退所せざるを得ない。
 しかも民法の規定では、未成年者は保護者の同意なしでは住居や携帯電話の契約もできない。だから施設の高校生は住む場所を確保するため、職種への関心や適性よりも寮付きであるか否かを職業選択の上で最優先事項とするのだ。
 対象年齢の引き上げにより、少なくとも高卒後の職業選択の幅は広がろう。虐待を受けたのが高校3年生だった場合、誕生日が来ていれば保護対象にならないという問題も解消できる。対象年齢引き上げはやはり必須であろう。
 専門委では「20歳を超えても、必要な支援を継続させる法的な仕組みが必要だ」との意見も出た。同感だ。年齢によるしゃくし定規の区切りでなく、真に自立支援になるような制度が必要だ。
 児童虐待と経済格差は関連性があると指摘されている。それなら保護された生徒が相応の所得の得られる職種に就ける環境を確保しない限り、虐待の世代間連鎖が生じかねない。
 現代社会では、望み通りの職種に就くには、やはり一定程度の高等教育が求められることが多い。高卒後、本人が希望すれば大学にも専門学校にも進める支援制度を法的に定める必要があろう。養護施設出身者は学費を免除し、施設と距離のある進学先であれば寮などを確保する仕組みがあっていい。
 全国の児童相談所が対応した児童虐待は昨年度、8万8千件を超えた。1990年度の集計開始以来24年連続の増だ。99年度の7・6倍に達するが、この間、全国の児相に配置された「児童福祉司」は2・4倍になったにすぎない。態勢整備が件数の急増に追い付いていないのだ。
 専門委は、児相の任務を保護などの「介入」に特化し、親子の「支援」を市町村に切り離す案も議論した。児相の介入機能強化になるなら歓迎だ。半面、現状で市町村が「支援」の機能を担えるのか、疑念なしとしない。市町村への財政的・人的支援も検討したい。