<社説>ロシア機撃墜 あくまで外交的解決を


この記事を書いた人 Avatar photo 宮城 菜那

 今ほど冷静かつ理性的な判断が求められる局面はない。トルコ軍戦闘機が自国領空を侵犯したとしてロシア軍機を撃墜した。

 パイロット1人が死亡し、救難に駆け付けたロシア軍ヘリの兵士も銃撃を受け死亡したとの情報もある。極めて憂慮すべき事態だ。
 国際社会全体が両国の緊張の高まりを望んでいない。このままでは取り返しのつかない事態になりかねない。
 ロシアのプーチン大統領はトルコを「テロの共犯者」と呼び、「背中を刺された」と指摘、両国関係に「重大な結果」をもたらすと警告した。憤りは理解できるが、ここは冷静かつ理性的な判断をしてほしい。国際社会の結束が乱れれば、孤立していた「イスラム国」が喜ぶだけであろう。あくまで外交的に解決してもらいたい。両国に和解を促すべく国際社会も一致して協力すべきだ。
 撃墜をめぐる情報は錯綜(さくそう)している。トルコによると、領空侵犯した「国籍不明機」2機に対し5分間で10回警告したが応じなかった。国境の2キロ内側を17秒間侵犯した時点でうち1機に対し「トルコ領内」でミサイルを発射した。
 これに対しロシアは、当該機は「イスラム国」掃討作戦に参加した後の帰途だったとし、国境からシリア側に1キロ入った上空で攻撃され、シリア側に4キロ入った地点に墜落したと主張する。
 シリアをめぐる直近のいきさつが背景にあろう。欧米諸国がアサド政権打倒を求めるのに対し、ロシアは、ロシア寄りのアサド政権を支援し、「イスラム国」掃討を名目として反アサド勢力を標的に空爆していると非難されていた。
 一方、トルコはシリア国内のトルコ系少数民族トルクメン人の反体制派を支援する。だがこの勢力は最近、ロシア軍の空爆を受けた。トルコ外務省は駐トルコのロシア大使に空爆中止を求め、度重なる領空侵犯についても「侵犯された場合は交戦規定を適用する」と警告していた。
 こうした摩擦から撃墜という最悪の結果に至った。だがこれを本格的な戦争にしてしまえば、犠牲になるのは何の罪もない市民だ。何としても避けなくてはならない。
 両国は第三者を交えた検証機関で原因を究明し、対処してほしい。「イスラム国」掃討を目的とする空爆も罪なき市民の犠牲を招いている。人的・物的・資金的封じ込めで粘り強く弱体化を図るべきだ。