<社説>米銃乱射 憎悪の連鎖 断ち切らねば

 一時の感情や表層にとらわれたら深層の潮流を見失いがちだ。何が本質的問題なのかを見極めたい。

 米国で銃乱射事件が発生、14人が死亡した。容疑者の夫婦はイスラム過激思想に染まっていたとみられ、オバマ米大統領は「テロ」と断定した。大統領は殺傷能力が高い銃が使われた点に触れ、テロ組織との関連が疑われる人物は銃を買えないよう規制を強化すべきだと訴えた。
 だがこれで解決するわけがない。米国で続発する銃乱射は、テロ組織と無関係な例が圧倒的に多い。米紙ニューヨーク・タイムズが社説で説いた通り「人間を素早く効率的に殺すように作られた武器を、市民が合法的に購入できる非道徳」を正面から否定しない限り、似た事件は続発するだろう。
 もっと懸念されるのは大統領が「イスラム国」掃討への決意を強調し、軍事作戦強化を示唆した点だ。何の罪もないシリア市民が巻き添えで殺される現状がさらに悪化しかねない。
 その意味で、容疑者の妻の方の経緯が示唆的である。西洋風の服に身を包む少女だった彼女は、パキスタンの大学進学時に過激化したとされる。そのころ通ったモスクで当時、神学生立てこもり事件が発生した。米国から「テロとの戦い」を迫られたパキスタン政府は軍を強行突入させ、女性や子どもを含む100人余が死亡した。これを機に同国の一部宗教勢力は最強硬の過激派となり、今では「イスラム国」に忠誠を誓っている。この妻の歩みもそれと重なったとみて不思議はない。
 5日にロンドンの地下鉄で無差別テロを図った男が「お前たちがシリアにひどいことをすれば血を流すことになる」と叫んだことも想起したい。憎悪が次の憎悪を招き、殺害が報復の殺害を生む連鎖を断ち切らない限り、本質的な解決はないはずだ。
 掃討作戦強化はむしろテロ組織に栄養を供給するようなものだ。欧米社会は中東の人命を軽視してきた過去を正面から見据えるべきだ。謝罪すべきを謝罪し、真の和解を探ることこそ本質的解決策であろう。
 一方で、オバマ氏が「恐怖に屈して排外主義に陥ってはならない」と演説したことを高く評価する。イスラムの聖典コーランは「罪なき一人を殺すのは人類全体を殺すこと」と教える。本来は平和的な宗教だという点に強く留意したい。