<社説>翁長知事就任1年 日本の危機に警鐘鳴らした


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 政治家の言葉と行動の重さを再確認した1年であった。日本の民主主義を問い、国民に覚醒を促す闘いに沖縄が挑んでいることを県民が自覚する1年でもあった。

 翁長雄志知事が就任1年を迎えた。辺野古新基地ノーという公約の実現に向けて政府と対峙(たいじ)してきた。まず、そのことを評価したい。県民も心強く思っているはずだ。
 政府に向かって発する翁長知事の言葉は痛烈であり、県民の共感と支持を集めてきた。沖縄の戦後体験を踏まえた発言だからだ。
 菅義偉官房長官との会見で、「粛々」と称して新基地建設を強行する姿勢を指して「キャラウェイ高等弁務官の姿が思い出される」と批判したことがその代表だ。
 「自治神話論」で知られ、米統治の圧政を象徴するキャラウェイ高等弁務官を引き合いに、政府の地方自治侵害を指弾した。
 5月の県民大会で発した「うちなーんちゅ、うしぇーてぇー、ないびらんどー(沖縄人をないがしろにしてはいけませんよ)」を加えてもよい。しまくとくぅばを用い、沖縄を軽んずる政府に対する県民の憤りを鮮明に打ち出した。
 国連人権理事会での演説で述べた「沖縄の人々は自己決定権や人権をないがしろにされている」も、国権に踏みにじられてきた沖縄の苦悩を世界に発した言葉として歴史にとどめておきたい。
 これらの翁長知事の言葉は、安倍政権の専横を痛打し、過重負担を沖縄に強いる日本の安全保障の矛盾を浮き彫りにした。さらに日本の民主主義や地方自治の危機に対し、沖縄から警鐘を鳴らした。
 戦争の反省を踏まえ、戦後日本が築き上げた財産を一政権が破壊しようとする政治の動きに異議を申し立て、国民の関心を集めた。翁長県政1年の大きな功績である。
 翁長県政の動きは日本の民主主義と地方自治がどのような方向に向かうのかを計る上で指標ともなろう。安倍首相や菅官房長官らは翁長知事の発言を率直に受け止め、民主国家としてどうあるべきか自問すべきだ。
 国との法廷闘争に入り、沖縄に対するさまざまな圧力が一層強まる恐れがある。しかし、県民、国民の支持も広がっている。
 沖縄は孤立してはいない。翁長知事は思いを新たにしてほしい。もちろん公約にもとるような言動はあってはならない。そのことも県民は厳しく注視している。