<社説>軽減税率導入 税制全体の見直し議論を


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 2017年4月の消費税率10%への増税に伴う軽減税率問題は、生鮮食品と加工食品全体を対象とする方向となった。約1兆円の財源確保が焦点となるが、これまで対象品目の線引きにばかり議論が集中してきた点は腑(ふ)に落ちない。

 消費税率を低く抑える軽減税率で自民党は、税収減が3400億円にとどまる生鮮食品のみの適用を主張していたが、加工食品への拡大を主張する公明党が押し切った形だ。
 自民が加工食品への拡大を容認した背景には、来年夏の参院選をにらんで公明に譲歩する思惑がある。安倍晋三首相ら官邸サイドの意向も強く働いたとされる。
 税制論議とは懸け離れた与党の選挙協力という次元で、国民生活に大きく影響する政策が決定していくことに失望を禁じ得ない。政治不信を増幅しかねないものだ。
 軽減税率は、所得にかかわらず一律課税される消費税の逆進性を緩和することが目的だ。家計の負担軽減や消費刺激の観点でも、昨年4月の8%増税時に導入を図るべきだったのではないか。
 そもそも自民は昨年12月の衆院選を前に軽減税率制度について公明と合意し、17年度の導入を目指すと公約していた。だが軽減税率に代わる給付金支給案が一時浮上するなど、自民では導入への消極的な姿勢が目立っていた。
 生鮮か加工かなど、対象範囲のみに議論の重きが置かれたことにも違和感を拭えない。本来なら食品以外の生活必需品全体について広く議論すべきであったはずだ。
 政府、自民が軽減税率論議で強く指摘したのは財源確保の問題だった。導入で生じる税収不足の議論は当然必要だ。だが安倍政権は法人税率は引き下げるという。企業の賃上げを促すためというが、内部留保に回る可能性は否定できず、家計への波及効果は不透明だ。
 軽減税率導入に伴う減収の穴埋め財源を、低所得世帯の医療費などの負担を抑える「総合合算制度」の創設見送りなどで捻出するという点もおかしい。軽減税率のため別の低所得者対策をやめるのは本末転倒だ。
 財源は予算全体の無駄を削ればいくらでも捻出できる。例えば在日米軍への「思いやり予算」や基地周辺対策費、関連交付金などの総額は毎年6千億円超に上る。
 そもそも再増税が必要なのか。聖域なき行財政改革と併せて、税制全般について議論し直すべきだ。