<社説>違法薬物摘発最多 治療体制整備し再犯防止を


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 健全であるべき社会が違法薬物によって危機に直面している。私たちはそのことを深く認識する必要がある。

 県内の違法薬物摘発人数はことし11月末時点で、過去の年間統計を上回る146人となった。残り1カ月の時点で既に、これまで最多だった2014年の125人を21人も上回っている。
 県警暴力団対策室が「薬物の乱用がまん延している」と警鐘を鳴らす異常事態である。社会全体で違法薬物の根
絶に向けた取り組みを強化したい。
 違法薬物は依存性が高く、断ち切ることは難しい。幻覚や幻聴に襲われ、正常な判断が働かなくなる。その結果、仕事に支障を来すことで生活は破綻し、家庭崩壊を招くこともある。事件化することで社会的な信用も失ってしまう。
 問題はそれだけにとどまらない。薬物依存に陥った人は違法薬物を買う金欲しさに、犯罪に走る危険性が高まる。違法薬物乱用がまん延すれば犯罪が多発し、社会の安定を大きく揺るがすことになる。
 違法薬物は使用する人の人生を狂わすなど失うものは大きいが、得るものは何一つないのである。
 他県では危険ドラッグを吸って車を運転し、通行人を死亡させる事故が起きている。県内でも同様な事故がないとは言い切れない状況にある。
 那覇市で昨年12月まで危険ドラッグを宅配し、逮捕された男の携帯電話には県内の顧客300人、延べ800人の記録があった。昨年の摘発人数は125人であり、それ以上に違法薬物使用が広がっている可能性がある。
 最も危機感を覚えるのは摘発人数の9割近くを一般の人が占めていることである。11月末までの摘発者のうち暴力団構成員は18人で、128人は一般の人だった。興味本位やさまざまな悩みから違法薬物に走ってはならない。代償の大きさを知るべきだ。
 11月末までの薬物事案摘発者の再犯率は前年比2・8ポイント増の35・6%、3人に1人は依存から抜け出せていない。
 取り締まりの一層の強化と併せて治療体制の整備、充実に取り組み、再犯防止につなげる必要がある。薬物依存を減らす専門プログラムの普及を進め、自助グループへの参加を勧めることで、違法薬物への欲求を断ち切らせたい。社会も白眼視することなく、立ち直りを目指す人を支えたい。