<社説>自動車ハッキング 利便性より必要性追求せよ


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 自動車がスマートフォン(多機能携帯電話)の遠隔操作で乗っ取られる。SFのような話が現実となった。広島市立大大学院の井上博之准教授(情報工学)の実験では窓を開閉させたり、停止中に速度表示を180キロにしたりできた。

 実験はインターネットに接続する機器を車に取り付けて行った。現時点で制御システムが外部と直接接続する市販車は日本になく、問題はないというが、自動車へのサイバー攻撃が可能になったことは脅威だ。
 米国では外部との通信に常時接続する車(コネクテッドカー)を乗っ取る実験映像が公開された。このためメーカーは140万台のリコールを余儀なくされた。
 2020年をめどに、国内の自動車メーカーや海外の情報通信関連企業は自動運転車の実用化を掲げているが、安全性を担保するために各社は通信内容の暗号化など対策を取る必要に迫られる。
 2015年版の総務省情報通信白書によると、コネクテッドカーは近年注目を集め、車自体の状態や周囲の道路状況などのデータを取得する。データを活用し、提供できるサービスとしては、事故発生時に自動的に警察や消防へ緊急通報する仕組みなどがある。欧州では18年から、この緊急通報システムが新型車に義務付けられる。
 同白書に掲載された消費者アンケートでもコネクテッドカーを「利用したい」「利用を検討してもよい」が半数を超えた。日本でも近い将来、自動運転車やコネクテッドカーが公道を走る時代が来る。万全の備えが必要だ。
 車に限らず、現代の生活はあらゆる場面でモノがインターネットにつながる。既にスマホからドアの施錠・解錠ができる商品が実用化されている。「モノのインターネット(IoT)」と呼ばれる。
 科学技術の発展は社会に必要だが、悪意ある第三者が使うことで社会に不利益をもたらす例はネットに限らず、軍事技術などいくらでも例がある。そうした悪用を防ぐためにも安全性の追求は重要だ。同時に技術開発の在り方も考えたい。
 自動運転や遠隔操作でモノを動かす必要性はどこにあるのか。考えられるのは要介護者や障がい者ら身体の自由が利かない人のためだ。安全性や利便性も大事だが、本当に必要とする人に新技術の恩恵はあるのか。誰のために、という思想の追求も技術者に求めたい。