<社説>サウジの断交通告 世界基準から外れている


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 イスラム教スンニ派の盟主サウジアラビアがシーア派大国イランとの外交関係を断つと発表した。

 国家間で意見の違いや乗り越えねばならない問題がある場合、話し合いで解決を目指すことが世界基準である。サウジの断交通告はそれから大きく外れている。
 発端は「宗派対立を扇動した」として、サウジで死刑判決を受けたシーア派の有力指導者が処刑されたことだ。イランでは処刑に反発する群衆が首都テヘランのサウジ大使館を襲撃し、一部が暴徒化して大使館に放火した。サウジ側は襲撃事件を「イラン側が黙認した」とし、断交に踏み切った。
 襲撃事件は許されない行為である。一方で、断交は国家間の問題解決には何ら役立たないばかりか、対立を深めることにしかならない。
 憂慮すべきはバーレーンとスーダンがサウジに追随してイランとの断交を決め、アラブ首長国連邦(UAE)は駐イラン大使の召還を発表したことだ。
 シリア内戦や過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭で、中東情勢はただでさえ混迷を極めている。サウジとイランの対立が中東諸国にさらに飛び火すれば、中東情勢は不安定さに拍車が掛かることになる。サウジの断交通告によって25日開幕を目指すシリア和平交渉や、国際的なIS包囲網構築への影響も懸念される。
 断交は自ら敵国をつくり出す行為である。断交によってイランとの冷戦状態を招くことはサウジだけでなく、中東の利益にならないことは明らかである。
 イランは昨年7月に欧米など6カ国と核問題解決の最終合意に達し、国際社会への復帰が本格化する見通しとなった。断交の背景にはイランの影響力が強まることに対するサウジの強い危機感がある。
 だがサウジに今求められていることは、イランと対立することではない。イランをはじめとする関係国と協力して中東情勢を安定させることである。
 サウジはレバノン内戦を和平に導いたタイフ合意(1989年)や、パレスチナ和平交渉を勢いづけた中東包括和平案(2002年)に大きく貢献した実績がある。
 宗派対立を乗り越え、中東諸国が平和的友好関係で結ばれることを実現するため、サウジは主導的役割を果たしてほしい。それにはまずイランとの断交を撤回すべきだ。