<社説>米の銃規制強化策 これでは命を守れない


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 オバマ米大統領が大統領権限に基づく銃規制強化策を発表した。インターネットや展示会を通じた銃売買で、購入者の身元調査を義務付けることなどが内容である。

 ホワイトハウスは強化策の柱を「罪を犯す人物が銃を購入できない仕組み」と説明する。だが、これで銃に絡む事件の犠牲者を減らすことにつながるだろうか。
 規制強化策は既に売買された膨大な数の銃への対策が抜け落ちている。市民が所有する全ての銃を買い上げて回収するなどの手だてを講じなければ、今後とも銃による悲劇が繰り返される可能性がある。
 銃の売買を認めることを前提とした規制では、市民の命を守ることはできない。市民が合法的に銃を購入できる仕組みを廃止し、個人が銃を所持することを非合法化しなければ、大きな効果は望みようもない。
 だが、銃社会からの脱却には大きな壁があることも事実である。オバマ氏は2012年に小学校で26人が殺害された乱射事件を受けて、包括的な銃規制法制定を目指してきた。しかし、全米ライフル協会(NRA)や共和党保守派の根強い反対で見送られた。
 合衆国憲法修正第2条の「国民が武器を保有し携行する権利は侵してはならない」との規定も障害になっている。銃犯罪で犠牲者が出る度に規制強化を求める議論が高まると、NRAなどは国民が銃で自衛する権利は法的に保障されているとして反対してきた。このため、厳格な規制は何度も頓挫してきた経緯がある。
 銃規制に対する厳しい現状からすれば、オバマ氏は今できる最大限のこととして、議会承認を必要としない大統領権限を行使したといえよう。規制強化策は実効性の面で期待はできないものの、銃によって身を守るという伝統が根付く米国社会で、国民の意識を変える契機となることを期待したい。
 米国では年間約3万人が銃によって死亡している。昨年だけでも4件の乱射事件が発生し、35人の尊い命が犠牲になった。
 個人の安全を守ると信じられてきた銃が、個人の命を奪う現実から目をそらしてはならない。いつ銃の被害者になるかもしれない状況を放置していいはずがない。オバマ氏の銃規制強化策を、米国が銃社会と決別する転換点にしてほしい。