<社説>改憲が争点に 緊急事態条項は許されない


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 民主的政体と立憲主義の存亡が懸かっている。この危機に無関心ではいられない。

 安倍晋三首相が年頭記者会見で、夏の参院選の争点として改憲を掲げる考えを示した。だが国会の代表質問で野党が「憲法のどこをどのように変えるのか」とただしたのに対し、正面から答えなかった。
 「国会や国民的議論、理解の深まりの中でおのずと定まる」と述べただけだ。選挙の争点にすると言いながら自分の考えを示さないのはなぜか。
 選挙前に改憲の意思を述べておくことで、選挙の勝利をもって改憲の許可を得たことにする。その上で自分の望む部分を改憲するということだろう。改憲のフリーハンドを握り、「後はお任せを」と言うに等しい。そんな政治を民主的政体とは言えない。権力者が勝手なことをしないよう憲法で縛りをかけるのが立憲主義だ。フリーハンドは立憲主義にも反する。
 この政権は憲法解釈も一方的に変更し、それを正当化する安全保障法制も憲法学者多数が違憲と断ずる中で成立を強行した。憲法53条に基づいて野党が臨時国会開会を求めても無視した。立憲主義軽視は顕著だ。自分たちの気に入らない憲法はないがしろにする一方、新たな憲法をつくるというのは、まさにご都合主義ではないか。
 昨年の国会で首相は緊急事態条項を憲法に創設したい考えを示しており、与党もそれを軸に改憲論議を進める構えだ。
 確かに衆院・参院の任期満了選挙が災害で実施できないことがあれば、政治空白が生まれる可能性はある。だが自民党が4年前にまとめた憲法改正草案では、緊急事態宣言で内閣は法律と同じ効力を持つ政令を出せることになっている。国民の私権制限も一方的にできる。戒厳令そのものだ。そうなれば政権はまさに万能である。民主的政体も立憲主義も完全に霧消する。断じて許容できない。
 自公は既に衆院で3分の2の議席を持つ。参院では非改選で76議席あり、ことし86議席を得れば3分の2を握る。自公が3年前と同じ結果だとして、おおさか維新など改憲派があと10議席を得れば改憲を発議できる。
 衆参同日選なら自民が大勝すると取り沙汰される。参院選ないし同日選は、間違いなく日本の針路を一変させる選挙となろう。なおのこと安倍政権は改憲の条項を具体的に示し、堂々と論戦すべきだ。