<社説>がん 封じ込めを実現しよう


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 日本人の2人に1人は生涯で最低1回はがんにかかり、3人に1人はがんで死亡する。だからその克服は国民的課題である。

 全国がん登録制度が今月から始まった。国内全てのがん患者のデータを漏れなく集めて分析するから治療成績向上につながるはずだ。データに基づく科学的対策により、封じ込めを実現したい。
 国立がん研究センターが1999~2002年の症例約3万5千件の分析結果を発表した。10年生存率は58・2%だった。胃がんや大腸がんは5年と10年で生存率の差は小さいが、肝臓がんや乳がんは生存率が大きく下がった。5年後以降も検診などできちんと監視する必要があることが裏付けられた。
 ことほどさようにデータ収集と分析は重要だ。だが、これでも全国16施設の症例で導いた結論にすぎない。全症例ならこの100倍以上に上る。より精度の高い分析が可能になるだろう。
 例えば、切除手術だけを施した場合と放射線治療を併用した場合、あるいは抗がん剤服用と併せた場合の、それぞれの治療成績も把握できる。それも進行度に応じ、あるいはがんの種類別でのデータも分析できるのだ。
 新たな視点の治療方法も見つかるかもしれない。治療法だけでなく、検診などがん対策の優先順位も付けることができる。全国登録に基づく統計がまとまるのは数年後だが、活用に期待したい。
 がん治療は日進月歩だ。10年生存率も、進歩した治療を受ける現在の患者ならさらに高まっているだろう。昨年12月に公表した「がん対策加速化プラン」で国はゲノム(全遺伝情報)利用医療の推進も掲げた。がんの封じ込めはもはや夢物語ではなくなりつつある。
 ただ、例えば特殊な放射線をがん細胞に照射する「重粒子線治療」は自己負担額が平均約309万円に上る。先進医療の拡大で所得による医療格差の恐れが高まっている。保険適用とその審査期間短縮など、格差を防ぐ対策も従来以上に求められる。
 沖縄での地域がん登録は早いが、その分析によると胃など多くのがんで全国より好成績だ。だがこれはお年寄りが貢献しているはずで、食生活の欧米化に注意を払いたい。検診受診率の低さも懸念材料だ。今後、全国との比較で分析はより精度が高くなるはずで、それにより確かな改善策を構築したい。