<社説>施政方針演説 民意に反した施策改めよ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 自らの看板政策を前面に、生活支援の姿勢をアピールする内容だった。夏の参院選を強く意識しているからに違いない。

 安倍晋三首相が国会で施政方針演説を行った。第2次安倍内閣発足後、同演説は4回目だが、新たに掲げた「1億総活躍社会」や、地方創生などの看板政策を強く主張した点が特徴だろう。
 中でも強調したのは、正社員と非正規労働者の賃金格差を是正する「同一労働同一賃金」だ。首相は「(その)実現に踏み込む考えだ」と表明した。
 方向性に異論はないが、従来は野党側が強く主張していた施策だ。参院選に向け、野党をけん制する思惑もにじむ。
 昨年秋に議員立法で同一労働同一賃金推進法が成立しているが、その実効性は不透明だ。一方では派遣労働者について、企業側の受け入れ期間制限を事実上なくす改正労働者派遣法も成立している。
 「世界で一番企業が活動しやすい国」を掲げて労働分野の規制改革を進めてきた安倍政権下で、格差はむしろ拡大していないか。非正規労働者の割合が全国で最も高い沖縄ではより深刻な問題だ。
 首相は「ニッポン1億総活躍プラン」を新たに策定するなどと表明したが、雇用安定の具体策が何よりも求められる。
 演説で首相は、江戸時代末期の幕臣である小栗上野介らの言葉を引用しながら「批判だけに明け暮れ、対案を示さず、後は『どうにかなる』という態度は国民に無責任だ」と述べた。
 野党を挑発し、参院選に向け対決姿勢を鮮明にした形だ。だがその一方、財政再建問題では「2020年度の財政健全化目標を堅持」と述べるにとどめた。「バラマキ批判」にもきちんと答えていない。軽減税率導入に伴う1兆円の財源不足にも触れなかった。
 名護市辺野古の新基地建設問題で首相は「普天間飛行場の全面返還を日米で合意してから20年。もはや先送りは許されない」と、あくまで移設を進める姿勢を示した。移設先をめぐる多様な意見が米国にもありながら、政府が県内移設に拘泥してきたことで20年も問題が停滞したことに反省が全く見られない。
 首相は「沖縄の皆さんと対話を重ね、理解を得る努力を続ける」と述べた。その言葉にうそがないなら、民意に反した施策を押し付ける愚行をまず改めるべきだ。