<社説>マイナス金利 劇薬の影響を見極めたい


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 金融政策の大転換だ。日銀がマイナス金利導入という劇薬を投下した。黒田東彦日銀総裁によるこの賭けが吉凶いずれに転ぶかは不透明だ。効果を慎重に見極め、必要なら速やかに軌道転換すべきだ。

 民間銀行が日銀に預金すれば、これまでは利息が付いた。だがマイナス金利になると逆に民間側が金利を払わなければならない。預ければ預けるほど損をする仕組みだから、理屈の上では日銀に預けるより市中に貸し付けた方がいいことになる。
 なぜ転換に踏み切ったのか。金融緩和の方法には大きく分けて2種類ある。一つは金利を低くすること、もう一つは銀行などが持つ国債を買うといった方法で、市場への資金供給を増やすことだ。
 金利は従来、ゼロ金利が底だと考えられていた。その意味で日本は限界に達していたから、黒田日銀は緩和の方法を後者に頼ってきた。だが日銀の年間国債購入額は既に年間発行量に匹敵し、限界が近づいていた。だから緩和策は金利に向かわざるを得なかったのだ。
 2014年にマイナス金利を導入した欧州ではマイナス金利の住宅ローンまで登場した。借金する人がもうかるのだから住宅購入が促進されるのは当然である。
 デンマークでは15年前半だけで集合住宅の平均価格は8%上昇し、スウェーデンでも1年前より16%も高くなった。今や住宅バブルの様相すら呈しつつある。
 マイナス金利は床板を取り払って地下を掘るようなものだ。理論上はいくらでもマイナス幅を広げられる。だが持続可能とは思えない。マイナス金利のコストが金融システムから消えて無くなるわけではなく、結局は誰かが負担しなければいけないからだ。
 当面は銀行が負担する。日銀に預けるのは逆ざやであっても、市中の預金者から集める預金は、銀行間の競争がある以上マイナスにはできないからだ。「事実上の銀行税」と言われるのも無理はない。
 負担はいずれ臨界点が来る。そうなればコストは貸出金利に転嫁せざるを得ない。景気刺激のはずが逆に金融引き締めとなりかねないのだ。
 金融政策転換の背景には新興国経済、とりわけ中国経済の減速がある。だから日銀が緩和強化を打ち出しても根本的な問題解決にはならない。短期的な効果はいずれ剥げ落ちる。金融システムが痛む前に出口戦略を構築すべきだ。