<社説>16年度県予算案 理念見据えた事業展開を


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 県の新年度予算案が決まった。翁長県政のカラーを打ち出そうとする姿勢がうかがえる内容だ。

 2016年度一般会計当初予算案は15年度比1・0%増の総額7542億円で、過去最高額を5年連続で更新した。喫緊の課題となっている子どもの貧困対策や、翁長雄志知事が重要公約に掲げるアジア経済戦略構想の実現などに重点を置いた点が大きな特徴だ。
 離島活性化などの新規事業も目を引く。名護市辺野古の新基地建設計画など基地問題への対応に追われる中、経済政策や地域活性化、教育・子育て支援策などの新事業展開に注力する姿勢が表れている。
 県政が「克服すべき最重要課題」と位置付けた子どもの貧困対策では27億7千万円を計上した。柱となる30億円の基金創設を含む15年度補正予算案の計上分と合わせると約60億円だ。低所得世帯向けの奨学給付金事業の拡充、県外進学大学生支援事業の創設などを盛り込んでいる。新年度を「元年」とした長期的な事業展開を求めたい。
 アジア経済戦略構想関連では、大規模な国際会議や催しの受け皿となる大型MICE(マイス)施設の建設に向けて80億円を計上した。約4万平方メートルという国内でも有数規模の展示場整備がいよいよ動きだす。誘致戦略を明確に設定するなど、施設の稼働率を高めていく取り組みが肝要となる。
 予算案には海外企業の沖縄への投資と立地を促すための事業や、県内企業の海外進出を支援するための新規事業なども盛り込んだ。沖縄の地の利を生かして、知事が強調する「アジアのダイナミズム(力強さ)」をどう取り込み、地域経済の成長にいかにしてつなげるか。具体的なモデルとなる民間事業を強く後押ししてほしい。
 その意味でも494億円を計上したソフト事業の一括交付金の活用はより重要だ。一括交付金は国から不用額の改善や執行率の向上を指摘された経緯もある。予算全体を通し、効率的な執行と無駄の削減が求められていることは言うまでもない。
 新年度は現在の沖縄振興計画の折り返しとなる5年目を迎える。計画の基盤となった長期構想「沖縄21世紀ビジョン」が示す2030年の沖縄の将来像は「時代を切り拓(ひら)き、世界と交流し、ともに支え合う平和で豊かな『美ら島』」だ。理念に向けて現状を再検証し、新たに歩みだす機会にしたい。