<社説>那覇市薬代助成 命支える抜本策が必要だ


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 貧困に苦しむ県民の命を支える施策が求められている。法改正を含め抜本的な対応が必要だ。

 那覇市は2016年度から、市内で無料・低額診療(無低診)を受けている生活困窮者を対象に薬代の助成を始める。市によると県内初の取り組みだ。次年度予算案に事業費55万円を計上する。取り組みを評価したい。
 医療機関の無低診は、生活困窮者の医療費の全額または半額を減免する制度だ。県内では那覇市内の3カ所を含む8医療機関が無低診を実施しており、生活困窮者にとって「健康のとりで」となっている。
 ところが病院外で処方される薬は減免対象外だ。国の方針で「医薬分業」が進んだのに、無低診制度は院内調剤が主流だった時代のまま続いている。無料・低額の薬局制度が整備されない限り、患者は医療費が減免されても薬代を払わなければならない。薬代を払えず受診を諦める人もいる。
 那覇市の措置は、制度のはざまで苦しむ生活困窮者を救済し、受診を促すものだ。その意義は大きい。制度の不備を補うため、ほかの自治体も追随し、薬代の助成に踏み出してほしい。
 将来的には制度改正による抜本的な生活困窮者の支援が不可欠だ。医療団体は保険薬局も無低診の実施主体となれるよう法改正を求めている。県内でも薬代助成を求める陳情や請願がなされている。
 これまでに高知市や旭川市、青森市が自治体独自の薬代助成事業を実施しており、那覇市の事業化はこれらに続くものだ。しかし、自治体単独の財政では患者の救済におのずと限界がある。
 家庭の経済状況を問わず、全ての国民は必要な医療を受ける権利がある。憲法は「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(25条)を保障している。
 憲法に照らしても、薬代を払えずに受診を断念してきた生活貧困者を救うため、制度を改めるべきだ。政府は早急に改善策を検討してほしい。
 沖縄の子どもの貧困をめぐる議論が高まりを見せている。県が独自に算出した子どもの貧困率29・9%は全国の2倍近くだ。医療面で命を守る施策展開は急務だ。
 貧困は個人の責任ではなく社会の責任であることを忘れてはならない。制度の陥穽(かんせい)で苦しむ人々を生命の危機から救済することは、私たち社会の責務である。