<社説>悪質商法規制強化 知識と対応策も必要だ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 消費者庁は悪質商法への規制を強化する方針を決めた。今国会に提出予定の特定商取引法改正案に強化策を盛り込む。

 訪問販売や通信販売で虚偽の説明をして購入・契約を迫るなど、不当な勧誘をした法人への罰金刑を現行の「300万円以下」から「1億円以下」に引き上げる。業務停止命令を受けた業者には会社名を変えて違反を繰り返さないように「業務禁止命令」を新設し、同じような事業の展開を禁じる。
 厳罰化によって違反の抑止効果が生まれ、悪質商法の被害者が減るなどの効果が期待される。だがそれにも限界はある。
 認知症などで被害に気付かない高齢者がいる。公的機関などへの相談もせずに泣き寝入りしてしまう消費者もいる。被害が把握できなければ、法律も機能しない。このような埋もれた被害を掘り起こす仕組みづくりも必要だ。
 法規制が厳しくなれば、悪徳業者は認知症の高齢者らに狙いを定めてくることも予想される。悪質商法から高齢者らを守り、被害をすくい上げる体制の構築にも社会全体で知恵を絞りたい。
 現状は、被害者に返金するかどうかは業者の判断に委ねられている。業者が応じない場合、消費者は訴訟を起こさねばならない。訴訟費用や労力を考え、諦めるケースも多いとみられる。
 改正案には国や自治体が業務停止命令を出した業者に、被害を回復するよう指示できると明記する。業者に返金計画を立てさせ、適切に実行されているかを行政が監視できるようにする。指示に従わない場合は「6カ月以下の懲役または100万円以下の罰金」を課す。
 これも前進ではあるが、完全ではない。悪徳業者は法に違反することを知った上で、違法行為を繰り返している。代表者らが個人として不当勧誘で罰せられた場合の罰則は現行でも「3年以下の懲役または300万円の罰金」だが、違反は後を絶たない。行政の指示に従わない業者も出てくるだろう。
 法律だけでは悪徳商法の被害を根絶し、全てを救済することはできない。重要なことは一人一人が悪質商法の知識と対応策を身に付けることだ。その場で購入したり、購入を約束したり、契約書に署名したりしてはならない。知人や消費生活センターに相談することを心掛けたい。