<社説>児童施設退所者支援 負の連鎖断つ施策進めよ


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 厳しい生活環境の中で育った沖縄の若者を支える施策だ。当事者の実情に見合った制度となるよう検証と議論を重ねたい。

 県は児童養護施設を退所した後に進学・就職する人の家賃や生活費を貸与する無利子の貸付事業を新たに実施する。国の9割補助事業で、就労を一定期間継続すれば返還を免除する。
 養護施設出身者の自立を助ける制度の必要性はこれまでも指摘されてきた。県の対応を歓迎したい。貧困など負の連鎖を断つ一助となるはずだ。
 児童養護施設の入所者は高校卒業時の18歳になれば退所しなければならない。しかし、経済的な基盤がない以上、自立には困難が付きまとうことになる。
 進学や就職で希望する進路を自ら選び、経済的に自立するまでは公的支援の継続が必要であろう。施設出身者の自立支援は社会の要請である。今回の施策はそれに応えるものだ。
 課題もある。施設退所者の使いやすい制度となっているかという点だ。資格取得貸し付けは2年間、家賃と生活費貸し付けは5年間、同じ職場で働くことが返還免除の条件となっているが、この規定は施設出身者の実情に照らして妥当なのか吟味する必要がある。
 20歳前後の若者にとって転職は特別なことではない。自らの可能性を追求するための手段とも言えよう。それは養護施設出身者にも同じことが言えるはずだ。
 長年過ごした養護施設を巣立った若者が困難を重ねる中で、自らの環境を改めるために転職を決意したとしても責めることはできない。貸付金を免除してもらうため、希望しない職場で働き続けるのは当人にとって不本意なはずだ。施設出身者の実態を踏まえ、弾力的な運用を検討すべきだ。
 今回の貸付事業以外にも、施設出身者の自立を支える施策の実施に向け、議論を重ねたい。
 施設出身者がアパートを契約する時、連帯保証人探しに苦慮するという。親が保証人になれない場合は出身施設の責任者が保証人となるケースが多い。これも住宅支援の一環として対応策を確立すべきだ。
 親の経済力や育児放棄などさまざまな理由で児童養護施設で暮らす児童生徒の健やかな成長と、退所後の自立支援を官民一体で取り組みたい。これは沖縄社会の責務でもある。