<社説>南西諸島の施設整備 軍事拠点化への動きだ


<社説>南西諸島の施設整備 軍事拠点化への動きだ
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 県や自治体が管理する地方空港や港湾を国主導で軍事拠点化する危険な動きだ。平穏な住民生活に逆行するものであり、看過できない。

 政府は防衛力の強化を目的とした公共インフラ整備事業の候補として新石垣空港や宮古空港、与那国空港の滑走路延長、石垣港や平良港の岸壁拡張を検討している。那覇空港も整備候補に挙がっている。早ければ2024年度予算に関連経費を盛り込む。日頃から自衛隊の訓練などを受け入れることが条件となる。
 滑走路延長や岸壁整備は輸送力アップにつながる。それが地域住民の利便性向上や観光など経済振興を目的とした滑走路延長や岸壁整備なら歓迎できよう。
 しかし、政府が検討しているのは防衛力増強を主目的としたものだ。地方に点在する公共インフラの望ましい整備とは言いがたい。空港や港湾を管理する県や自治体の意向や需要予測を度外視するようなインフラ整備は財政上も不健全ではないか。
 今回の公共インフラ整備事業は昨年12月に閣議決定した国家安全保障戦略に基づくものである。この中で訓練や有事における展開を念頭に、自衛隊や海上保安庁のニーズに基づく空港や港湾など公共インフラ整備の必要性と、政府の横断的な仕組みの創設による整備促進を明記している。
 この方針を踏まえ、政府は8月に省庁横断の関係閣僚会議を開催し、南西諸島を中心に整備の必要性が高い施設を「特定重要拠点空港・港湾」に選定した。この中に宮古や石垣、与那国の空港や港湾と那覇空港が含まれている。
 新石垣空港や宮古空港は現状2千メートルの滑走路を大型輸送機が発着できる2500メートル以上に延長する。与那国島は滑走路延長と合わせて比川地区への新たな港湾整備が検討されている。
 石垣や与那国の滑走路延長や港湾整備は自治体側からの要請も出ている。現行の与那国・祖納港は北風の影響を受けやすく、船舶の安定運航に課題があった。しかし、本来ならば内閣府の沖縄振興予算の中で民間専用の空港・港湾として整備するべきだ。
 「台湾有事」を名目に宮古、石垣、与那国で自衛隊駐屯地が配備され、防衛力の増強が急速に進んでいる。さらに「特定重要拠点空港・港湾」の枠組みで空港、港湾を整備することによって、3島の要塞(ようさい)化が一層促進することになりかねない。
 那覇空港も同様である。防衛力強化のために誘導路を増設することが国内の拠点空港の一つに数えられる那覇空港の整備の在り方としてふさわしいか疑問だ。可能な限り民間航空機の発着を中心とする空港を目指すことが本来の姿ではなかったか。
 特定重要拠点空港・港湾と位置付けて、防衛力増強を名目に進められるインフラ整備は公共事業の在り方をゆがめる。警戒が必要だ。