<社説>トンネル内事故 非常用設備の基準見直せ


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 命の危険を感じているのに、猛烈に噴き出す黒い煙で前が見えない。避難する人たちはどれほどの恐怖感を味わっただろうか。またしても、トンネル内の事故の恐ろしさ、危険性が浮かび上がった。

 広島県東広島市の山陽自動車道下り線「八本松トンネル」で渋滞の車列に中型トラックが突っ込んだ。5台が炎上して2人が死亡し、煙を吸うなどして68人が病院に搬送された。速度が上がる分、少しの気の緩みで多くの死傷者を出す自動車道のトンネル内事故が後を絶たない。
 自動車運転処罰法違反の容疑でトラック運転手が逮捕された。追突現場直前のブレーキ痕がなく、前方不注意の可能性が高い。
 国土交通省は運送会社にも特別監査を入れた。運転手の不注意以外に、被害が拡大したトンネル特有の要因がなかったか。徹底した原因究明と安全管理の検証、再発防止策の確立が求められる。
 事故が起きた八本松トンネルの全長は約840メートルで、出口まで約200メートルの地点だった。炎上した車からの火柱は天井に達し、瞬く間に黒い煙が充満した。数珠つなぎになった車から脱出して避難する人たちは視界をほぼ失い、手探りで逃げざるを得なかった。
 トンネル内には、上りトンネルと結ぶ避難通路や消火栓と消火器が50メートル間隔で設置されていたが、スプリンクラーや排煙設備はなかった。トンネルの全長と交通量を基に分類した国の非常用設備の設置基準によると、設置優先度が2番手に位置付けられている八本松トンネルは、スプリンクラーや排煙装置は必要に応じて設置することになっている。運営会社の西日本高速道路はこれらを設けていなかった。
 基準に合致しているとはいえ、猛煙が避難の行く手を阻んだことを踏まえると、非常用設備の設置基準を見直さねばなるまい。
 静岡市の東名高速道路日本坂トンネルで起きた多重事故を受け、1981年に基準が通達されてから35年がたつ。トンネルの現状に合致しているか、厳密な検証が必要だろう。
 県内にも、有料の自動車道路や公道に八本松トンネルに匹敵する長いトンネルがある。今回の事故を機に、関係機関は事故発生時の避難誘導などの対応を再確認すべきだ。加えて、全ドライバーが高速道での安全運転に意を注いでもらいたい。