「防衛」の名の下に沖縄の軍事要塞(ようさい)化を進めるようなことが決してあってはならない。
与那国島で陸上自衛隊の沿岸監視隊が発足した。中国の海洋進出をにらんだ防衛力強化の一環で、周辺の海域や空域で活動する船舶や航空機をレーダーで監視する。約160人の隊員が配置された。
配備について防衛省は「自衛隊の空白地域を解消し、警戒監視と抑止に当たるため」などと説明しているが、違和感を禁じ得ない。
沖縄の復帰後、自衛隊基地の新設は初めてだが、沖縄には既に在日米軍専用施設の74%が集中している。過重な米軍基地の負担に苦しむ中、自衛隊基地・部隊の創設に新たな重圧感や不安を覚える県民は少なくあるまい。
日米安保体制下で広大な米軍基地負担を強いられる沖縄で何が「空白」で、どう「防衛力強化」を図るのか。政府から納得のゆく説明はなく、軍事的必然性の議論は不十分のままだ。
防衛省は今後、宮古島や石垣島ほか奄美大島にも警備部隊やミサイル部隊などを配備する計画だ。南西諸島だけで合計約2千人を新たに配備することになる。
だが脅威をあおるだけでは相手にむしろ軍拡の口実を与えかねない。ミサイルその他の軍事技術が発達した現代においては、不断の外交や信頼醸成の努力こそが最大の抑止になり得るはずだ。
高い山のない与那国島からのレーダー監視効果には疑問の声もある。そもそも南西諸島への配備自体、冷戦後リストラを余儀なくされた陸自の組織防衛策との見方もある。間違っても自衛隊の生き残りのために離島地域が利用されるようなことがあってはならない。
与那国町は経済活性化を理由に自衛隊を誘致したが、産業振興などの課題は残ったままだ。町は2005年に「自立へのビジョン」を策定しているが、島の将来像を今後どう描いていくのか。自衛隊員と家族が島の人口の約15%を占めることになる。選挙への影響も予想される。
地元では依然配備に反対する声が強く、しこりが残っている。レーダーによる健康被害を心配する声もある。防衛省は住民の声に今後もより丁寧に対応すべきだ。
石垣や宮古などでも同様だ。まず計画の全容を明らかにし、配備に反対する声に真剣に耳を傾けるべきだ。既成事実化は許されない。