<社説>ハンセン病訴訟 国の責任で完全補償を行え

 自らの出自を隠さざるを得ないほど、かつてハンセン病への偏見・差別はひどかった。それは元患者だけでなく、家族も同じ境遇だった。沖縄出身の父が元患者で、差別を受けた経験をつづった「生まれてはならない子として」の著者・宮里良子さんは、嫁ぎ先や職場で「両親は死んだ」と偽り、父の最期をみとる際も職場に「姉が危篤」とうそをついた。

 そうした遺族や家族らが、差別・偏見の原因は国の強制隔離政策にあったとして、国に謝罪と損害賠償を求めて提訴した。
 治療可能で感染力が弱いハンセン病への偏見を助長したのが国の政策にあることは、これまでの裁判などで明らかだ。国は患者だけでなく、家族らに対しても責任を認め、完全な補償を行うべきだ。
 訴訟は1次、2次合わせて568人が原告となり、県内からは全国最多の244人が参加した。
 31日で「らい予防法」の廃止から20年。民法の規定で損害賠償請求権が消滅するぎりぎりのタイミングだ。司法の場でハンセン病差別の背景を解き明かし、国の責任が追及されるのも最後の機会となるだろう。裁判所も家族らの訴えをしっかり受け止めてほしい。
 ハンセン病家族訴訟で最初に集団訴訟を提起した「れんげ草の会(ハンセン病遺族・家族の会)」(熊本市)の会報を読むと、いかに元患者や家族が苦しんできたか分かる。肉親に患者がいるというだけで、子どもたちは学校で石を投げられ、のけ者にされた。就職や進学、結婚の機会を奪われた人もいる。さらには家族自身が元患者の肉親を避け、周囲にうそをつかなければならない状況に追い込まれた。家族や人生そのものを奪った被害は過去のものでなく、「現在進行中」だと会報は強調する。
 ハンセン病への差別・偏見は一義的に国の責任だが、患者や家族を苦しめた一因は社会にもある。例えば元患者本人が国の隔離政策による人権侵害を訴え、補償を求めて提訴したのは県内で約70人にとどまる。非入所者だけで県内には400人いるとされるが、弁護士や支援団体などによると「偏見を恐れて名乗り出ない」からだという。
 家族訴訟原告団長の林力さん(福岡市)は「無知は差別の始まり」と強調する。悲劇を繰り返さぬよう裁判を通して一人一人がハンセン病の歴史と向き合い、わが事として捉える契機にしたい。



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