<社説>鉄軌道ルート 基地返還跡地に路線を


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 県の沖縄鉄軌道技術検討委員会が沖縄本島の鉄軌道ルート4案を提示した。いずれも那覇市-名護市を結ぶ案だ。だが前提に疑問がある。再検討を求めたい。

 4案とも浦添市、宜野湾市を経由する点は共通するが、そこからが異なる。中部と北部でそれぞれ東案・西案があり、4案はその組み合わせである。
 問題は、線路を高架あるいは地下と想定していることだ。中南部都市圏を前提とした県の調査によると、建設コストは鉄道の場合、地面で1キロメートル当たり50億~100億円、高架だと100億~150億円、地下だと200億~300億円だ。比較にならないほど地面が安い。
 それなのになぜ高架ないし地下なのか。国交省令で道路と鉄道の平面交差を禁じているためだ。生活圏を横切る線路なら、地面だと正式な踏切でない「勝手踏切」が生じかねず、危険だからである。
 だが沖縄には膨大な米軍基地がある。返還が予定される牧港補給地区、普天間飛行場、キャンプ瑞慶覧をつなげば、既存市街地をほとんど通らずに沖縄市または嘉手納町の手前まで届く。跡地を利用すれば既存の生活圏を横切らず、大部分で地上を走ることができる。白地に絵を描くような返還という好機を生かさない手はない。
 もっと言えば、嘉手納飛行場、嘉手納弾薬庫、キャンプ・ハンセン、キャンプ・シュワブも数珠つなぎで名護まで結べる。これらの基地を一部返還させればいい。
 採算が厳しいことを理由に、国は沖縄の鉄軌道に慎重だ。だがそれは鉄道会社が建設から運行までを担う「上下一体方式」が前提だからだ。これに対し、国などの公共予算で整備し、鉄道会社は運行に専念する「上下分離方式」なら、開業数年で黒字化が可能だ。全国の整備新幹線はこの方式である。
 戦災復興としての国有鉄道再整備も、整備新幹線も、沖縄に恩恵はなかった。たばこ税の一部は国鉄の債務補填(ほてん)に回っているが、県民の納税もそれに充てられているのである。
 これらは公共予算投下の根拠となろう。沖縄の鉄軌道を戦後補償と位置付け、上下分離とすべきだ。基地内の国有地分を無償提供させて鉄道用地とし、それを国の整備費の一部に換算すればいい。
 そうすれば初期投資を極小化でき、上下分離で黒字化も見込める。実現可能性が飛躍的に高まろう。