<社説>訪日客4千万人に 質の充実こそが鍵となる


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 政府は東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年に、訪日外国人旅行者数を4千万人、その消費額を8兆円とする新たな目標を盛り込んだ観光戦略を決めた。

 日本は14年の外国人旅行者数約1341万人でアジア7位、世界22位だが、4千万人を実現すれば中国を抜いてアジア1位、世界4位に躍り出る可能性がある。
 消費額8兆円ともなれば、国内の消費を押し上げる。製造業や小売業、雇用などへの波及効果も期待される。官民で知恵を絞り、「観光立国」を目指したい。
 訪日客数は13年に約1036万人と初めて1千万人を突破し、中国人への観光ビザ発給要件を緩和した15年は約1974万人に上るなど好調に推移している。一方で訪日客増加に伴い、ホテルの客室不足は深刻さを増している。
 政府は4月1日から一般住宅に観光客らを有料で泊める「民泊」を許可制で解禁する。だが住居専用地域での営業は原則できない。宿泊者の安全確保や近隣住民とのトラブル防止など、解決しなければならない課題もある。客室不足解消の「切り札」になり得るかは不透明である。
 日本は島国のため、訪日客の約95%が航空機で入国する。首都圏の空港は20年代前半にも受け入れ能力を超える見通しである。地方空港への就航を増やし、訪問先を大都市以外に広げることが必要だ。地方には魅力的な文化や風景がある。その観光資源を海外に発信し、認知度を高めねばならない。
 15年の訪日客増加率で全国トップの静岡は着陸料減額を売りに攻勢を掛け、中国との定期路線を増やした。2位の佐賀はロケ誘致に力を入れ、タイ映画のロケ地となったことからタイ人観光客を大幅に増やした。参考になろう。
 受け入れ態勢の整備で、できることは全てやるとの姿勢がなければ、目標達成はおぼつかない。沖縄はバース不足からクルーズ船の入港を断らざるを得ない状況にある。政府は遊休化している那覇軍港の返還要求を今すぐ強化すべきだ。
 訪日客増加はビザの緩和のほか、円安による割安感が大きく影響していよう。だが円安傾向が今後も続くとは限らない。国全体の魅力づくりや交通利便性の確保、多言語に対応した人材の育成など、質の充実こそが4千万人を呼び込む鍵となる。