<社説>戦傷医療拡充へ 戦死者を出していいのか


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 防衛省が有識者会議を設置し、有事の際に最前線で負傷した自衛隊員の治療拡充策について検討している。検討機関の設置は安全保障法制の法案化作業が自民、公明両党間で大詰めを迎えていた昨年4月のことである。防衛省は「安保法とは無関係」とするが、うのみにはできない。

 安保法に連動しないのであれば、自衛隊員の最前線での負傷を前提とした医療行為を検討する必要などないはずである。
 政府はこれまで安保法施行で「自衛隊員のリスクは高くならない」と説明してきた。だが、最前線での戦傷医療拡充を検討すること自体、自衛隊員のリスクが確実に高まったことの何よりの証しである。国民を欺くような説明は厳に慎むべきだ。
 日本を戦争ができる国へと変えた安保法の危険性が、また一つはっきり浮かび上がったと言える。防衛省の戦傷医療拡充は「国内有事を想定したもの」との説明に至っては他国の戦争に参戦することで、日本が標的になることを認めるようなものである。
 政府は想定されるあらゆるリスクを包み隠さず、国民にしっかりと説明すべきだ。
 有識者会議は、救急救命士と准看護師の両方の資格を持つ隊員に専門的な講習を受けさせ、「第一線救護衛生員」(仮称)に指定し、現場で気管切開などの医療行為ができるようにする方向で、法改正を視野に議論している。
 医療行為には医師免許が必要だ。免許取得には大学医学部で専門知識と技術を習得し、国家試験に合格しなければならない。自衛隊員が講習を受けたからといって医師と同格ではないし、技術も当然劣る。その分、医療ミスのリスクも高くなろう。有事を想定しての対応とはいえ、自衛隊員の命を軽視していいのか。
 自衛隊の海外任務を規定した国連平和維持活動(PKO)協力法の改正に伴い、自衛隊の武器使用基準が緩和された。駆け付け警護のほか、他国軍との宿営地の共同防衛など治安維持業務が加わったことで、交戦の危険性は増す。
 実際の新任務実施は今秋以降に先送りされたが、実施は時間の問題だろう。戦死者が出る危険性さえある状況をこのまま放置してはならない。安保法は廃案にするしかない。