<社説>TPP先送り 交渉記録を開示すべきだ


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 いかにも一時しのぎである。参院選への悪影響を避けただけの、姑息(こそく)な選挙対策という印象を否めない。政府・与党は環太平洋連携協定(TPP)承認案の今国会成立を見送る方向で検討を始めた。

 先送りは、TPPの内容への自信のなさの裏返しとも見える。
 ともあれ時間はできた。その分、国民的かつ徹底的な論議を広く展開すべきだ。情報の開示と密室協議の解明は議論の大前提である。全てが黒塗りだった交渉記録を、政府は早急に全面開示すべきだ。
 先送りを正式に決めて国会での審議が途絶える前に、甘利明前経済再生担当相を特別委に招致する必要がある。密室協議の内実を明らかにさせるべきだ。
 政府は墨塗りの理由について「参加国との守秘義務がある」と説明するが、西川公也特別委員長の著書の草稿とみられる文書には交渉過程の記述があるとされる。国会では隠しながら、与党議員の著書では一部開示したことになる。これが事実なら、いかにも与党にとって都合のいい部分だけの「つまみ食い」にほかならない。
 情報の恣意(しい)的な開示は、政策の民主的統制に反する。まさに「よらしむべし、知らしむべからず」ではないか。そんな姿勢では民主的な議論はできない。
 TPPに伴う日本の関税撤廃率は、農産物に限ると81%だ。政府与党はこれを交渉の成果のごとく言う。一方で、協定の付属書には、発効7年後に米国など5カ国から要請があれば再協議するとある。フロマン米通商代表と頻繁に密室協議した甘利氏は、再協議を約束してはいないのか。
 「そんな約束はしていない」と主張するかもしれない。だが、大臣室で特定の業者から平然と現金を受け取った大臣である。密室での言動には疑問が湧く。やはり交渉記録の実物を開示させたい。
 政府はTPPで国内総生産(GDP)を14兆円押し上げると主張するが、3年前の試算より突然4倍に跳ね上がった。農林水産物の生産減少額は3兆円から2100億円へと、いきなり14分の1になった。にわかに信じがたいこうした前提の数々も、徹底的に検証すべきだ。
 その上で夏の参院選の大きな争点に据えたい。交渉内容に自信があるなら与党は情報を堂々と開示して論戦すればよい。暮らしへの影響について徹底的に論議したい。