<社説>選挙制度改革 地方の声にも配慮を


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 「1票の格差」是正に向けた衆院選挙制度改革は、小選挙区定数を「0増6減」とする自民党案が今国会で成立する見通しとなった。人口比を正確に反映して議席配分する「アダムズ方式」を取り入れた抜本改革は2020年以降に先送りされる。

 選挙制度は民主主義の基盤だ。最高裁で「違憲状態」とされた1票の格差の是正は立法府の責務であるが、格差是正と定数削減を単純に結び付けると、人口の少ない地域の議席が減り続ける懸念もある。
 自民案は、15年国勢調査を基に人口の少ない選挙区の定数を6議席減らす。しかしアダムズ方式導入を先送りするため、小選挙区で各都道府県にまず1議席を割り当てる「1人別枠方式」は温存される。
 最高裁は、1票の格差が2倍を超えた2009年以降の衆院選を3回連続で「違憲状態」とした。その要因として廃止を求めたのが1人別枠方式だ。自民案ではこれが5年以上温存されることになる。その間の衆院選で最高裁から厳しい判断が下る可能性もある。
 司法の判断を重視し、有識者調査会の答申を尊重するならば、抜本改革は必要だろう。
 しかし、単純に数を減らすことが改革になるのだろうか。
 小選挙区の6減は青森、岩手、三重、奈良、熊本、鹿児島が対象で、比例4減は東北、北陸信越、近畿、九州だ。いずれも人口が減少傾向にある地方の議席を減らす。
 国会議員は「全国民を代表する」と憲法はうたう。しかし、地方再生を目指す中で、地域の問題を国政の場で訴えるのも議員の役目ではないか。今夏の参院選で1票の格差是正として初めて合区が導入されるが、「鳥取・島根」「徳島・高知」では、県からの参院議員がいなくなることへの困惑も広がる。
 有識者調査会の答申は国会の「身を切る改革」として定数削減を求めた。しかし単に数を減らすのではなく、歳費や文書通信交通滞在費、公設秘書給与など1人6千万円以上かかる国会議員の経費を削り、数を確保する策も検討に値するのではないか。
 連邦制の米国では、上院議員は人口に関係なく各州2人だ。「州の代表」と明確に位置付けられる。
 「全国民を代表する」という憲法の趣旨を真に生かすために、選挙制度の課題を明らかにし、改革のための議論を深めるべきだ。