<社説>防衛局報告書 残すべきはジュゴンの海


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 名護市辺野古の埋め立て予定海域からジュゴンもウミガメもいなくなったのはなぜか。

 新基地建設に伴い辺野古沖に設定された臨時制限区域内で、2014年8月から国の天然記念物ジュゴンの新たな食(は)み跡が確認されていない。沖縄防衛局が公開した水域生物調査報告書で分かった。
 食み跡が減った理由について識者は、音に敏感なジュゴンが建設工事の影響を受けた可能性があると指摘している。防衛局には、希少な動植物を保護するために浮具(フロート)や浮標灯(ブイ)、台船を撤去するなど環境保全措置の徹底を求める。政府は、知事選をはじめ何度も確認された沖縄の民意を真摯(しんし)に受け止め、新基地建設を断念すべきだ。
 報告書によると、辺野古沖の大浦湾側にある藻場でジュゴンの食み跡が14年4~7月の4カ月間で77回確認された。しかし、14年8~11月は確認されていない。
 ジュゴンが寄り付かなくなった14年8月から、約20隻の警戒船が投入され、臨時制限区域を示すフロートとブイが大浦湾を囲んだ。同年10月の台風でフロートを固定する最大160キロの鉄板などのアンカー248個のうち120個を紛失した。その際、大型ハマサンゴ群体が損傷、海草藻場でアンカーが移動した跡が見つかっている。
 15年1月下旬から鉄板のアンカーに代わってコンクリート製のトンブロック(10~45トン)が投下され、サンゴ94群体を破壊した。
 今回の防衛局の調査でも、辺野古崎辺野古側の海草藻場上で36カ所のアンカーの痕跡が見つかったことに言及している。最長は265メートルだ。
 一方、ウミガメは08年から13年までキャンプ・シュワブ沖への上陸が確認されていたが、14年は確認されなかった。
 新基地建設作業によってジュゴンやウミガメに与える影響が懸念されていた。今回の防衛局の調査で影響が確認されたことになる。この事実を厳粛に受け止めなければならない。
 新基地建設予定海域は生物多様性条約に基づく環境省の重要海域に選定され、県も自然環境保全指針で厳正な保護が求められる最高レベル「ランク1」に位置付ける。私たちが次代に残すのは造れば100年も動かないといわれる基地ではなく、ジュゴンのいる豊穣の海であることは言うまでもない。