<社説>秘密法運用監視 機能不全は明らかだ


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 政府は閣議で、特定秘密保護法の2015年の運用に関する報告書を決定し、衆参両院に提出した。

 国民の知る権利の侵害と、政府の恣意的な秘密指定が強く懸念される法律である。だが、指定が適正かどうかを国民が判断できる内容には程遠い。報告書までもが国民の知る権利を侵害していることは許し難い。
 報告書を要約すると、(1)特定秘密を扱う公務員らの身辺を調べる「適性評価」の対象者は9万6714人。評価拒否は38人(2)適性評価の不適格者は1人。所属省庁など具体的内容は非公表(3)新たに秘密指定されたのは61件。総数は443件。特定秘密が記録された行政文書は27万2020件-となる。
 ほぼ数字の羅列になる。適性評価の拒否理由は記述がない。拒否したことで配置転換などを迫られた可能性があるが、その実態を報告書から知ることはできない。
 秘密保護法は、特定秘密の指定状況などを毎年1回国会に報告するよう義務付けている。国民の知る権利に応えていない、今回のような報告書は到底認められない。
 政府は国会の関与を含めたチェック体制が確立され、行政機関における秘密の取り扱いに客観性と透明性が高まると説明していた。
 安倍晋三首相も昨年5月、運用の在り方を有識者が議論する情報保全諮問会議で「秘密指定の運用状況を国民に分かりやすく公表し、行政機関の秘密の取り扱いに関し、客観性と透明性を向上させたい」と強調していた。
 現状は逆である。国民が知りたい事項は載っていない。この報告書のどこに「透明性」があるというのか。
 衆参両院の情報監視審査会が3月に議決した初の特定秘密に関する年次報告書も、政府が必要な情報を提供しなかったことで秘密指定の適否判断を見送った。審査機関をつくっても、中身が伴わないとあっては設置する意味はない。
 チェック機関として内閣府に新設された「独立公文書管理監」も政府の機関であり、歯止め機関にはなり得ない。
 政府がいうチェック体制はどれを取っても役割を果たしていない。それどころか、あたかも適正に運用されているとのお墨付きを与えることに利用されているのでは、との疑念さえわく。運用監視体制の機能不全は明らかだ。秘密保護法は廃止するしかない。