<社説>ハンセン病特別法廷 憲法違反の疑いに向き合え


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 ハンセン病患者を強制隔離し続け、偏見や差別を助長した政策に、「人権のとりで」である司法が加担していた。その事実に真摯(しんし)に向き合った謝罪とは言い難い。

 ハンセン病患者の裁判を隔離先の療養所などに設置された「特別法廷」で開いていた問題で、最高裁は設置手続きが不適切だったと認め、謝罪した。最高裁の謝罪表明は極めて異例だ。
 しかし謝罪の中身は、特別法廷の設置手続きは「相当でない」としたものの、裁判の公開原則には「反したとまでは言えない」と述べるにとどめた。
 裁判の公開原則については先に外部有識者委員会が「法の下の平等や裁判の公開を定めた憲法に違反する疑いがある」と指摘している。25日の記者会見でも最高裁事務総長が「憲法違反が強く疑われる」と述べる一方、調査報告書の文面には違憲判断を明記しなかった。違憲を認めないことで「憲法の番人」の面目を優先させたと言われても仕方ない。
 報告書によると、1948年に最高裁の裁判官15人全員で構成する裁判官会議で、ハンセン病患者が被告の特別法廷の設置権限を事務総局に与えることを決めた。事務総局は地裁や高裁の申請に対し、ハンセン病の診断書さえあれば形式的に設置を許可。特別法廷は48~72年に95件開かれた。
 元患者らによると、裁判官も検察官も弁護士も白衣に長靴の「完全防備」の状態で裁判に臨み、証拠品を火箸でつまみ上げたり、被告人をかなり離れた場所に座らせたりしたこともあったという。いかに屈辱的だったことか。
 さらに本質的な問題は、こうした偏見に満ちた特別法廷で、公正な裁判がなされたか、である。
 殺人罪に問われた元患者が無実を訴えながら特別法廷で死刑を宣告され、62年に執行された。裁判は一般の傍聴が極めて困難な、ほとんど「非公開」の状態で進められた。最高裁の調査報告書では「療養所などは国民が容易に訪問できるような場所ではない」としつつも、「事実上不可能な場所であったとまでは断じがたい」として、憲法違反には当たらないという姿勢を堅持した。
 公開の原則、平等の原則、さらに言うなら推定無罪の原則が守られていたか。最高裁はこの本質的な問いに答えるべく、今後も徹底的な検証をしてもらいたい。