<社説>安保法廃止法案 審議封じは姑息過ぎる


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 与党が言う「すでに決着している議論」ではない。3月29日に施行された安全保障関連法を巡って、野党5党が廃止法案を、維新などが対案を提出したが、自民、公明の与党は審議しない方針だ。「再び蒸し返す必要はない」と説明する。

 しかし、国民が安保法を理解し、受け入れているとは言えない。
 安倍晋三首相は安保法が施行された日の記者会見で「抑止力は高まる」と意義を強調した。しかし同じころ、国会周辺では約3万7千人(主催者発表)が安保法反対を訴えた。
 施行前の3月下旬に共同通信社が実施した世論調査では、安保法を「評価しない」が49・9%とほぼ半数を占め、「評価する」の39・0%を上回った。
 東京と福島では安保法の憲法違反を問う集団訴訟が起き、この動きは全国に広がりそうだ。
 この状況下で「国民が納得している」とは到底言えない。
 安保法は、憲法9条を掲げた日本の「平和主義」を大きく変えるものだが、昨年の国会審議はあまりにもいい加減だった。
 例えば、邦人救出の必要性について、首相は母子が米艦船に乗ったイラストを掲げて集団的自衛権行使の必要性を訴えた。だが、中谷元・防衛相は「必ずしも日本人が乗った船が防護の対象ではない」と述べ、国会審議は紛糾した。
 自衛隊の任務が拡大するにもかかわらず、中谷防衛相は「自衛隊員のリスクが増大することはない」と断言して野党の反発を招いた。
 首相が集団的自衛権の事例に挙げた中東ホルムズ海峡での機雷掃海活動も、「現実には想定していない」と首相自らが言わざるを得なかった。
 議論が迷走した揚げ句、与党が数の力で押し切った強行採決だった。これでは首相の言う「丁寧に国民に説明」とはならない。
 参院選までは安保法の反対論を表面に出さないよう廃止法案を無視し、国会審議を封じるのは姑息(こそく)過ぎる。
 廃止法案を出した野党5党はしっかりと政策を擦り合わせることが必要だ。特に民進党は安全保障に対する基本的な政治理念と政策を国民に分かりやすく打ち出すべきだ。
 後半国会も残り1カ月。政府は国民へ丁寧に説明をするためにも、野党の廃止法案審議を受け入れ、議論を尽くす必要がある。