<社説>ビキニ被ばく提訴 国は責任を認めるべきだ


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 米国が1954年に太平洋・ビキニ環礁で実施した水爆実験の際、周辺海域にいて被ばくした元漁船員やその遺族らが国の責任を追及する国家賠償請求訴訟を高知地裁に起こした。

 国は86年時点で「見つからない」としていた被ばくに関する過去の調査結果を2014年9月になって開示した。被ばくから60年後のことである。
 調査結果を国が長年開示しなかったため、米国への賠償請求の機会を奪われたとする原告の主張に、国は反論できまい。
 ビキニ水爆実験の被害は、死者が出た第五福竜丸だけではない。周辺海域では当時、延べ約千隻が操業・航行していたとされる。広範囲に降り注いだ「死の灰」によって、多くの漁船員が被ばくし、がんなどで亡くなっている。
 国が14年に開示した被ばく状況検査結果は延べ556隻(実数473隻)のうち、延べ12隻に一定線量以上の被ばくがあったが「健康被害が生じるレベルを下回っている」としている。
 当時の検査は内部被ばくを一切考慮していない。国はそのことを知っているはずだ。にもかかわらず、健康被害は生じないとの検査結果を追認するのはいかがなものか。国は責任を逃れるため、過小評価したとの疑念さえ湧く。
 原告の元船員は当時を振り返って「まともな被ばく検査もなかった」と述べている。国の検査結果を信頼することはできない。
 55年1月には第五福竜丸以外の人的被害を認めないまま、米国が法的責任を伴わない見舞金200万ドルを日本側に支払うことで政治決着した。ビキニ被ばくを「全て解決」したとすることで、日米は同年11月に最初の原子力協定を結んでいる。
 原子力の「平和利用」を促進するため、国はビキニ被ばくの全容を解明する責任を放棄し、被ばく者を放置したと言わざるを得ない。
 国は昨年1月、第五福竜丸以外の日本船船員の被ばく状況を評価するための研究班を設置した。もっと早く取り組むべきだった。
 被ばくの追跡調査さえしなかった国の不作為は明らかである。水爆実験で被ばくし、健康被害に苦しむ人は全国にいる。被ばく者の高齢化は進んでおり、これ以上被害を放置することは許されない。国は責任を認め、早急に被害者救済の扉を開くべきだ。