<社説>1億総活躍プラン 恒久財源は確保したのか


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 安倍政権は今後10年間の政策を盛り込んだ「1億総活躍プラン」をまとめた。

 非正規労働者の待遇を改善する「同一労働同一賃金」の実現、保育や介護現場の待遇改善などを打ち出したが、実現に至る道筋は見えない。
 財源は「アベノミクスの成果」として景気回復による税収増を挙げたが、景気が低迷する中で税収が伸び続ける保証はない。厳しい財政の中でどうやって恒久的な財源を確保するのか示す必要がある。そうでなければ参院選向けのPRと見られても仕方ない。
 日本の非正規労働は全体の約4割に上る。正社員に対する非正規労働者の賃金水準は約6割だ。格差社会を是正するために待遇改善は避けては通れない。
 同一賃金を実現するために、正社員の賃金を維持したまま、非正規の賃金を上げれば企業の総人件費は膨らむ。特に中小零細企業には難しい問題だろう。企業が払う人件費の総額が変わらなければ、正社員の給与が下がる恐れがある。
 同一賃金の問題で男女間に横たわる賃金格差の改善も急がれる。非正規労働の約7割は女性だ。非正規で働く女性の賃金は、男性の非正規労働者の約8割。男性正社員と比べると、さらに格差は広がる。非正規の女性は二重に格差がある。性別による賃金差別の解消も同時に取り組まなければならない。
 一方、会社などで働きながら介護をしている人は全国で約240万人。このうち家族の介護や看護を理由に仕事を辞める人は、年間約10万人いる。介護離職をなくすためには、介護の現場で働く人を増やす必要がある。働く魅力を高め人材を集めるために、賃上げが鍵を握る。今回、介護職員は経験に応じて賃金が上がるようにし月平均で1万円増額する。しかし、財源確保はこれからだ。
 保育士を増やして待機児童解消を目指す。そのために保育士の月給を17年度から約6千円増やす。ベテラン保育士はさらに月給を積み増し、合計で4万円程度増やす。しかし、これも財源確保はこれからだ。
 経済格差が教育格差につながるような状況も是正しなければならない。だが、学生向けで返済が不要な給付型奨学金も結論を事実上先送りした。これでは1億総活躍社会の実現は心もとない。