<社説>消費税増税再延期 アベノミクスの見直しを


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 参議院選挙を意識した安易な増税先送りなら許されない。

 安倍晋三首相は主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)で景気の現状がリーマン・ショック前の状況に似ていると指摘し、各国に危機感の共有を求めた。こうした景気認識に基づいて消費税増税の再延期に踏み切る。首相は2019年10月まで延期する意向を政権幹部に伝えた。
 だが、増税を再延期する根拠を新興国の景気減速に求めるのはおかしい。むしろ財政健全化も景気回復も実現できないアベノミクスの失敗を認め、経済政策を見直すべきだ。
 消費税増税は12年8月、税率を14年4月に5%から8%に、15年10月に10%に上げると定めた消費税増税法が成立した。だが安倍首相は14年11月、予定通り10%に増税すればデフレ脱却が危うくなるとして、再増税の時期を17年4月に1年半先送りした。その際「再び延期することはない。アベノミクスによって増税できる環境をつくる」と明言し、総選挙を実施した。
 今回のサミットで首相が示した景気認識について、一部の首脳から「危機」に当たらないとの異論が出た。国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事も「(リーマン・ショックが起きた)08年のような時期ではない。危機からは抜け出した」と述べるなど、安倍首相の認識と食い違っている。
 そもそも政府は、社会保障制度の維持や財政健全化のために増税が必要だとしてきた。増税延期で財源がないから年金や介護、子育て支援など社会保障の充実策を先送りするというのでは、国民は納得しない。先送りすれば政府の財政規律は緩み、財源を借金に頼る構造が続くことになる。国と地方を合わせた借金は既に1千兆円を超えている。
 むしろ、増税を予定通り実施できる環境を整えられなかった安倍政権の経済政策の失敗こそ、追及されるべきだ。サミット後の会見で「アベノミクスのエンジンをもう一度最大限吹かしていく」と強調したが、このエンジンが停止状態にあることを、直視すべきだ。
 サミットを増税延期に利用するのは一国の首相が取るべき態度ではない。自民党内に「増税にこだわれば、参院選に負ける」との懸念がある。選挙を意識した先送りならもっての外だ。安倍首相は説明責任を果たしてもらいたい。