<社説>石垣陸自予算要求 混乱招く暴挙をやめよ


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 地元合意が形成されず、自治体の意思表明すらない計画の予算を請求するという姿勢は許し難い。地域の混乱を招く暴挙だ。

 防衛省は石垣市の陸上自衛隊配備計画で、来年度予算案の概算要求に駐屯地の用地取得費や調査費100億円を盛り込む方針だ。
 防衛省がこの計画を石垣市に正式に伝えたのは昨年11月である。中山義隆市長は現時点で受け入れの是非について態度を表明していない。
 この段階の予算要求は本来あり得ない。市民の意思を度外視して、配備計画を進めようという強硬姿勢の表れだ。防衛省は要求方針を改めるべきだ。財務省も要求を認めてはならない。先行き不透明の計画に予算を付ける必要はない。
 特に用地取得費を盛り込むというのは重大な問題だ。駐屯地として防衛省が提示したのは市平得だが、その地権者との交渉を、札束をちらつかせて進めようという意図であろう。実際に用地交渉に入れば、深刻な地域分断を招きかねない。
 防衛省の配備計画は、有事の際の初動を担う警備部隊を置く一方、地対艦ミサイル、地対空ミサイルを配備するというものだ。隊員500~600人を予定している。
 市民生活や経済活動に多大な影響を与える可能性がある大規模計画であるにもかかわらず、防衛省は地元への説明をしてこなかった。市民の不安や不信感は情報開示を怠ったがための当然の帰結だ。
 市平得に隣接する開南、嵩田、於茂登の3地区は共同で計画に反対する方針を確認している。このことから見ても予算要求の環境が整っていないことは明白だ。
 そもそも迎撃できるか疑わしいミサイル配備は市民の安全につながらない。配備計画を中山市長に伝えた若宮健嗣防衛副大臣は「攻撃に対する抑止力を高める」と説明したが、むしろ軍事拠点は攻撃対象になるというのが71年前の沖縄戦で私たちが得た教訓だ。
 いたずらに脅威をあおり、軍拡を進めることは他国を刺激することになりかねない。外交努力の積み重ねこそが国家間の緊張緩和を促し、安定を醸成するのだ。
 巨額を振りかざして市民生活をかき乱すような行為は厳に慎んでもらいたい。これだけの金があるなら、財政難を理由に打ち切る米軍基地周辺の学校を対象とした空調維持費補助を継続すべきだ。