<社説>ヘイトデモ不許可 全国自治体で条例制定を


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 この国に広がる差別を根絶する一歩と捉えたい。

 川崎市は、差別をあおるヘイトスピーチ(憎悪表現)を繰り返していた団体に対し、公園の使用を不許可にした。ヘイトスピーチをなくすための取り組みを国や自治体に求めた対策法が成立して以降、公共施設の利用を許可しなかったのは全国で初めてとなる。
 ただ対策法は憲法が保障する表現の自由を侵害する恐れがあるとして、禁止規定や罰則はない。法律専門家の間では、実効性を疑問視する見方がある。それなら対策条例を制定した大阪市をモデルに各自治体が条例を制定して、根絶の動きを加速しよう。
 今回、川崎市がヘイト団体に公園の使用を不許可とした点は評価する。今後は道路使用に関する許可も出さないなど、ヘイトスピーチの根絶に向け取り組みを強化してもらいたい。
 ヘイトスピーチは人種や国籍、民族、宗教などを理由に差別や偏見を抱き、言葉で憎しみを表現する行為だ。韓流の街として知られる東京の新大久保で過激化し、銀座や川崎で多発している。
 対象は沖縄にも向けられた。2013年1月、東京でオスプレイ配備反対のデモ行進をした沖縄の代表団に対し、沿道から「売国奴」「生ごみはごみ箱に帰れ」といった罵声が浴びせられた。
 10年に「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の会員らが徳島市の徳島県教職員組合の事務所を襲撃する事件が発生した。ヘイトスピーチを放っておけば、ヘイトクライム(憎悪犯罪)にエスカレートすることを忘れてはならない。
 国連自由権規約委員会は14年に「過激で表現の自由を超えている」と日本に法規制を勧告した。表現の自由は憲法で保障されているが、ヘイトスピーチは明らかに権利の乱用であり、個人の尊厳を傷つけている。
 7万人を超える在日韓国・朝鮮人が暮らす大阪市は1月、全国の自治体で初めてヘイトスピーチ対策の条例を制定した。団体名を公表することで活動をけん制する効果がある。
 かつて全国の地方自治体は、国に先駆けて公害対策や情報公開などを条例化した。その後、国が重い腰を上げたという事例がある。規制に先鞭をつけた大阪のように地方が独自の条例を制定することを検討すべきだ。