<社説>首相の約束 信用できるはずがない


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 安倍晋三首相が消費税率10%への引き上げを2年半延期することを正式に表明し、7月の参院選で国民に信を問う考えを示した。

 会見での首相発言を要約すれば「アベノミクスは順調である。だが、新興国や途上国の経済がリスクとなっている中、内需を腰折れさせかねない消費税率引き上げは延期すべきである。これは『新しい判断』であり、公約違反ではない」となる。
 こんなごまかしが通るとでも考えているのだろうか。
 首相は3年半のアベノミクスの成果として、順調な雇用指標などを挙げる一方で、都合の悪い経済成長率などには触れなかった。まやかし以外の何物でもない。
 実質経済成長率は2013年度こそ2・0%だったが、14年度はマイナス0・9%、15年度も0・8%でしかない。安倍政権が経済財政運営の前提とする2%成長に、この2年は届いていないのである。個人消費も低迷が続いている。
 つまり、首相は消費税率を引き上げる環境づくりに失敗したのである。それを覆い隠し、世界経済に責任転嫁する姿勢はいかがなものか。
 「公約違反との批判があることも真摯(しんし)に受け止める」としながら、わびることはしない。政治家としての誠実さに欠けていないか。
 首相はリスクを取り払うため「アベノミクスのエンジンを最大限に吹かす」とも述べた。では、今までは低速ギアだったのか。アベノミクスに期待はできない。性能の悪いエンジンを無理に吹かすのではなく、消費税に代わる社会保障の財源を再検討することこそ必要である。
 首相は「子育て世帯を支援していく決意は揺らがない」と述べた。保育の受け皿50万人分確保、介護離職ゼロに向けた介護サービスの受け皿50万人分の整備も、予定通り確実に進めると約束した。
 だが、公約を「新しい判断」の一言でほごにする首相である。今後も「新しい判断」を繰り出し、約束を実行しないことも十分あり得る。
 首相は参院選に関し「民主主義とは何か。それは選挙を通じて国民の声を聞くことである」と述べた。その通りである。だが、言葉とやることがこれほど乖離(かいり)している人もそうはいないだろう。選挙を通じて示された沖縄の民意を踏みにじり続けているのは誰か。首相の言葉を信用できるはずがない。