<社説>再編交付金拡大 地方自治への介入やめよ


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 現在の日本政府に立憲主義や民主主義を理解する者はいないのだろうか。政府方針を実現するためなら「ばらまき」も辞さずという姿勢には不信感ばかりが募る。

 在日米軍再編に伴い、基地負担が増す市町村に交付される再編交付金について、政府は自治会や都道府県への拡大を検討している。
 再編交付金の対象を拡大する狙いは明らかだ。住民意思を無視して米軍再編を強行し、地方自治体と住民を分断することにある。それは沖縄と県外の二つの例から分かる。
 名護市では辺野古新基地建設に反対する稲嶺進市長が当選後、再編交付金が支給されていない。一方で国は移設予定地周辺の辺野古、豊原、久志(久辺3区)に直接補助金を支給する制度を創設した。
 住民の生活環境向上であれば、基地再編に関係なく行うべきであり、名護市を通すのが筋だ。
 山口県岩国市では、岩国基地への空母艦載機移転などの機能強化に当時の市長が反対し、住民投票でも過半数が艦載機移転を拒否した。しかし国は市庁舎建設への補助金を凍結し、市議会も「現実的対応」を要求。最終的には国が支援する容認派市長が誕生した。
 神奈川県座間市は、米陸軍第1軍団司令部のキャンプ座間移転に市長、議会、市民が一体となって反対した。隣接自治体に億単位の交付金が支給され、国からの圧力も強まる中、反対派市民不在のまま、座間市長は受け入れに転じた。
 いずれも賛成すれば交付金支給、
反対なら凍結というアメとムチを使い分け、住民間に対立をもたらした。地方自治を保障した憲法92条に反するだけでなく、国が地域での対立をあおった側面もある。
 自治会への交付金支出は基地強化に反対する住民意見を封じ込めることにつながりかねない。
 十分な監査機能を持たない自治会などの任意団体に公金を投入することは、補助金適正化法にも違反する。適正化法は「税金その他の貴重な財源でまかなわれるものであることに留意し(中略)公正かつ効率的に使用されるよう」求めている。
 議会や監査の審査を受けず、住民分断に血税を投入することは許されない。これ以上、国の暴走を見過ごせない。地方自治の原点に戻れば、米軍再編を強行するのは誤りだ。辺野古新基地建設を含め、住民の意思を尊重した見直しにこそ政府はかじを切るべきだ。