<社説>米軍属再逮捕 基地内の捜査権を認めよ


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 米軍基地内で日本の警察が捜査権を十分に行使できない異常事態を放置する政府の姿勢は、主権国家として許されない。日米地位協定の改定に直ちに取り組むべきだ。

 米軍属女性遺棄事件で、県警は死体遺棄容疑で逮捕していた元米海兵隊員で軍属の男を、殺人と強姦(ごうかん)致死の容疑で再逮捕した。
 20歳の女性が命を奪われた事件は新たな段階を迎えた。ここに至るまで、県警の捜査は常に日米地位協定の壁が障害になってきたことを見落としてはならない。
 県警が容疑者を逮捕したため、取り調べや身柄引き渡しなど、日米地位協定上の支障はなかったように見える。しかし、実態は違う。容疑者は米軍基地内で証拠隠滅を図った可能性があるにもかかわらず、基地内では直ちに捜査権を行使することができないのだ。
 県警は「遺体をスーツケースに入れて運んだ」という容疑者の供述に基づき、うるま市内の最終処分場で数点のスーツケースを押収した。この処分場は米軍基地の廃棄物を処理している。容疑者はキャンプ・ハンセン内でスーツケースを投棄した可能性がある。
 捜査の過程で県警が基地内での容疑者の足取りを把握しているならば、基地内の捜査は不可欠だ。
 ところが、日米地位協定は基地内での米国の排他的管理権を認めている。米側の同意がない限り、日本の警察は立ち入りできない。2008年12月の金武町伊芸区被弾事件では県警の立ち入り調査の実現に1年近くもかかった。
 米軍基地を治外法権のように規定し、米軍人・軍属の特権を認める日米地位協定が基地に絡んだ犯罪の元凶であることは誰の目にも明らかだ。しかし、今回の事件でも日本政府は日米地位協定の改定を米側に求めず、運用改善で幕引きを図ろうとしている。
 政府の対米従属姿勢はここに極まっている。新基地建設問題では「抑止力維持」を名目に辺野古移設に拘泥する一方で、県民の生命に関わる日米地位協定の欠陥には手を付けようとはしない。これでは国民の安全を守るべき責務を政府は放棄していると断じざるを得ない。
 事件に抗議して、那覇市で開かれる19日の県民大会は日米地位協定の抜本的改定を要求することになろう。主権国家を標榜(ひょうぼう)するならば、政府は県民の要求を受け止め、実行に移すべきだ。