<社説>水産高生選挙権問題 国は1票の重み尊重せよ


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 「18歳選挙権」が初めて導入される7月10日実施の参院選で、遠洋航海実習中の沖縄水産高校の生徒19人が「洋上投票」制度の対象になっていないため、初の1票を投じられない事態に陥っている。

 授業の一環である実習に参加したことで、選挙権を行使できないのはどう考えてもおかしい。
 選挙権を持つ全ての人に投票の機会を平等に保障することは、国の責務である。国は直ちに救済策を実施し、法令改正に着手すべきだ。
 長期間にわたって住所地を離れる漁業関係者や、外国航路の船員らを対象にした洋上投票の手続きには「船員手帳」が必要となる。水産高生が持つ「練習船実習生証明書」では手続きできない。
 実習生も選挙権が行使できるように洋上投票制度を改めておけば、今回の事態は確実に防げた。国の不作為は明らかだ。
 制度を変更する時間は十分にあった。2015年6月に公職選挙法が一部改正され、選挙権年齢が「18歳以上」に引き下げられた。その時点で、今参院選から適用されることはほぼ決まっていた。この間、適切な対応を取らなかった国の責任は重大である。
 だが、総務省選挙課は事の重大性を認識していないようである。「水産高校の生徒が投票できない事態はあり得た」「これまで関係省庁との協議の機会は設けてこなかった」との説明は、選挙を主管する課としていかがなものか。責任感や反省、そして改善に乗り出す姿勢も感じられない。
 総務省のホームページは、選挙権年齢を引き下げた狙いを「日本の未来を作り担う存在である10代にもより政治に参画してもらいたい」と記している。若者に期待する一方で、若者の政治参加を閉ざす状況を放置することは明らかに矛盾する。
 長崎、福岡、山口の3県が共同運航する遠洋漁業実習船に乗った高校生も投票できない事態にさらされている。全国で同様な高校生がいよう。
 このような高校生は、全国で新たに有権者となる18、19歳計240万人からすれば、ほんの一握りかもしれない。だからといって切り捨てることがあってはならない。
 選挙は国民が政治に参加する重要な機会であり、民主主義の根幹をなすものである。国は1票の重みを尊重し、実習生の選挙権行使を保障すべきだ。