<社説>与那国町長の改憲主張 発言の真意説明すべきだ


<社説>与那国町長の改憲主張 発言の真意説明すべきだ
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 発言の真意は何か。町民に説明する必要があろう。

 与那国町の糸数健一町長は3日、東京都内で開かれた憲法改正の発議を求める集会で、台湾海峡問題を踏まえ現憲法を改正して自衛隊を明記し、緊急事態条項を創設するよう主張した。国の交戦権を認めないと規定する9条2項に言及し「できれば『認めない』の部分を『認める』に改める必要がある」と言及した。
 糸数氏は、2022年に本紙が実施した県内41市町村長への憲法アンケートでも、現憲法を「評価しない」とし、新憲法制定、9条改正の選択肢を選んでいる。今回の集会での発言は、12年の自民党改憲草案とほぼ同じ内容だ。
 加えて糸数氏は、対中国を念頭に「全国民がいつでも日本国の平和を脅かす国家に対しては、一戦を交える覚悟が今、問われているのではないか」とも述べた。
 糸数氏は有事を想定し、政府に対し避難施設(シェルター)の整備へ支援を求めている。国境に面した自治体の首長として、台湾有事に対する危機感の表れとも受け取れるが、「一戦を交える覚悟」とは、住民保護の姿勢とは相反するものではないか。
 自民党の麻生太郎副総裁は23年8月、訪問先の台湾での講演で、台湾海峡の平和と安定には強い抑止力が必要とし、そのために日米や台湾に「戦う覚悟」が求められると主張した。麻生氏の主張と同様、糸数氏の発言が、国民や住民に「覚悟」を強いるものであるならば、看過できるものではない。
 先の大戦では、1938年の「国家総動員法」などを根拠に日本軍が住民を戦争に協力させ、沖縄戦では多くの民間人が「根こそぎ動員」によって戦場に駆り出され犠牲になった。
 仮に台湾有事となれば、与那国島をはじめ沖縄県内の住民が戦闘に巻き込まれる恐れがある。その住民に「戦う覚悟」を求めることは容認できない。糸数氏は発言の真意を明らかにしてほしい。
 地域の平和と安定のためには、自治体レベルでの友好関係構築も不可欠だ。与那国町は台湾の花蓮市と姉妹都市提携を結んでおり、歴史的にも台湾とのつながりは深い。台湾海峡を巡り、町長である糸数氏が台湾の支持と支援を表明することは理解できよう。しかし糸数氏は、集会で「日本は旧宗主国として台湾に対する責任を放棄してはならない」と述べた。
 正式な国交はないものの、日本と台湾は戦後、対等なパートナーとして協力関係を深めている。にもかかわらず、「旧宗主国」との表現を使うことは、時代錯誤も甚だしいと言わざるを得ず、過去の日本の植民地支配を肯定するものとの批判は免れない。どのような歴史認識を持っているのか。日本と台湾の関係を悪化させかねない発言だ。改めて、糸数氏にはその真意を明らかにするよう求めたい。