<社説>慰霊の日平和宣言 戦前回帰させぬ決意示す


<社説>慰霊の日平和宣言 戦前回帰させぬ決意示す
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 沖縄が再び戦場となる方向へとひた走っていることに、強い危機感が発せられた。県民が求めるのは武力による紛争解決ではなく、たゆみない対話による平和構築である。

 沖縄戦から79年の「慰霊の日」を迎えた23日、糸満市摩文仁で沖縄全戦没者追悼式があった。玉城デニー知事が発した「平和宣言」は例年にもまして、急激な自衛隊増強を沖縄で進めている政府を厳しく批判した。沖縄が直面している危機感の表明であり、日本の防衛政策への警鐘である。

 「平和宣言」は沖縄の現状について「あの戦争から79年の月日が経った今日、私たちの祖先は、今の沖縄を、そして世界を、どのように見つめているのでしょうか」と問い掛ける。米軍人による事件・事故、基地から派生する環境問題を挙げ、「過重な基地負担が、今なお、沖縄では続いています」と指摘し、普天間飛行場返還に伴う辺野古新基地建設の断念を求めた。

 今回の宣言は、政府の防衛政策に対する強い異議申し立てが最大の特徴だ。「いわゆる、安保3文書により、自衛隊の急激な配備拡張が進められており、悲惨な沖縄戦の記憶と相まって、私たち沖縄県民は、強い不安を抱いています」と述べている。

 昨年の宣言でも安保3文書を取り上げたが、今回は「自衛隊の急激な配備拡張」に言及し、国の防衛政策を牽制(けんせい)した。平和宣言で自衛隊に触れるのは異例である。

 住民を動員して飛行場を急造し、陣地構築を進めた沖縄戦直前の沖縄の状況と、今日の自衛隊増強を重ねる県民もいよう。宣言は自衛隊増強に対する県民の不安を反映したものである。政府はそのことを忘れてはならない。

 全戦没者追悼式に出席した岸田文雄首相はあいさつで「戦場に斃(たお)れられた御霊、戦禍に遭われ亡くなられた御霊に、謹んで哀悼の誠を捧げます」と戦争犠牲者を悼み、基地の負担軽減に尽くす政府の姿勢を示した。しかし、平和宣言が発した沖縄の危機感からはかけ離れている。

 平和宣言は「今の沖縄の現状は、無念の思いを残して犠牲になられた御霊を慰めることになっているのでしょうか」と問う。沖縄を「平和の島」とすることをうたった日本復帰時の政府声明を引用したのは、戦前を想起させる沖縄への自衛隊増強について、政府の姿勢を問うものだ。

 ウクライナやガザでは紛争が続く。台湾有事も取りざたされるが、平和宣言では平和と安定に向け、対立を深めるのではなく「多様性を受け入れる包摂性と寛容性に基づく平和的外交・対話などのプロセスを通した問題解決」を訴えた。これこそが沖縄戦の教訓を生かした平和外交の在り方であろう。

 全戦没者追悼式や各地の慰霊祭には多くの県民が参列した。沖縄戦の教訓を忘れず、平和創造への不断の歩みを重ねなければならない。