<社説>米兵少女暴行事件 人権軽視、主権が問われる


<社説>米兵少女暴行事件 人権軽視、主権が問われる
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 事件から約半年後、那覇地検による起訴から約3カ月後に明らかになった米軍嘉手納基地所属の空軍兵による少女暴行事件は、米軍基地から派生する事件・事故に絡む問題を浮き彫りにした。

 事件の究明と再発防止を図る上で必要な容疑者の身柄引き渡し、事件・事故の通報体制に関する取り決めがないがしろにされた。事件・事故抑止に関する協議機関も機能していない。県民の人権が軽んじられ、日本の主権の内実も問われる事態だ。

 事件発生は昨年12月末で、空軍兵は本島中部の公園で少女に声をかけて自宅で犯行に及んだ。110番通報で事件を認知した県警は米軍の管理下にある空軍兵を任意で調べた。起訴後に身柄は日本側に移ったが、現在は保釈されている。

 1995年の日米合同委員会合意では米側は「殺人または強姦(ごうかん)という凶悪な犯罪」の場合、起訴前でも日本側の身柄引き渡し要求に「好意的配慮を払う」とされている。今回、県警は身柄引き渡しを米側に求めていないが、16歳未満の少女を被害者とする事件は、身柄引き渡し要求の要件にある「凶悪な犯罪」に相当するのではないか。検証を求めたい。

 那覇地検が空軍兵を起訴したのは3月27日であり、同日、外務省は駐日米大使に抗議した。その後も政府から県への連絡はなく、7月12日の初公判期日が確定するまで事件の存在は公にならなかった。報道によって事件を知った玉城デニー知事が連絡がなかったことについて「著しく不信を招くものでしかない」と批判するのも当然だ。

 日米合同委員会は97年、在日米軍の事件・事故の日本側への通報体制改善について合意した。この中で(1)米軍機や米艦船の事故(2)危険物や有害物の誤使用・流出(3)日本人やその財産に実質的な損害を与える可能性のある事件―などについて速やかに米側から日本側関係当局、地元社会に通報する義務を確認している。

 少女を被害者とした性犯罪事件のため通報に慎重を期す必要はある。しかし、起訴から3カ月も事件の事実が伏せられたのは異常だ。日米合同委員会の合意事項に反しているのではないか。政府は明確に説明すべきである。

 米軍の事件・事故に対処する地元協議機関も機能不全に陥っている。

 1979年に米軍、那覇防衛施設局、県による三者連絡協議会が発足したが2003年5月の開催を最後に自然消滅した。00年に始動した「米軍人・軍属等による事件・事故防止のための協力ワーキングチーム」も休眠状態にある。事件・事故に対処する地元協議機関はないに等しい。

 米軍人・軍属による事件・事故が起きるたびに原因究明と再発防止、綱紀粛正が叫ばれてきた。しかし、このような現状では事件・事故の抑止はおぼつかない。